理想の国
『アルシェはボク以外にも、一人でいたり、暗い顔をしてたり、何処から流れ着いたか分からないような人にも話しかけてたよね』
『………暇だったから話しかけただけです。それに、すぐ帰られては商売あがったりですから』
「んっ、中々ガードが堅い。ツンデレ」
「アルシェはオレと同じ『混ざり者』だからな。どうしても一歩引いちまうんだよ、気持ちは分かるぜ」
ミナトとアルシェのやり取りに、リオとデボラは装置越しに茶々を入れる。
『でも、ボクは嬉しかったよ、アルシェが話かけてくれて。この世界にも自分の居場所があるんだって思えた。きっと皆もそうだ。だからカラムーンに、冒険者ギルドに、色んな種族の冒険者が集まってるんじゃないかな。只人だって、エルフだって、ドワーフだって、巨人だって、獣人だって、例え『混ざり者』と呼ばれていたって。誰かが自分を見ててくれてる、必要としてくれてる、そう思える場所なんだ』
『そうですね、そうだったのかも知れません。私が誰かを必要とするように、誰かも私を必要としてくれたのなら………寂しさを、悔しさを、憎しみに変えるのではなく、誰かの為に生きる力に変えられたら………そんな甘い幻想に縋って生きてきました。ここでなら、そんな子どもみたいな理想も夢も叶えられるかもと思っていました。………でも、カラムーンも変わってしまいました。せめて………せめて、ここだけは皆が安心して居られる場所であって欲しかったのですが、もう無理みたいです…………』
アルシェの言葉は涙に遮られた。
小さな箱から聞こえる、小さな音の波は、いつの間にかギルドに静寂をもたらし、誰もが二人の会話に耳をそばだてた。少女が紡いだ絆は確かにギルドに息づき、少女の見た夢は一人の物だけではなくなっている。
『やはり最初から、何処にも『混ざり者』の居場所はなかったのかもしれません』
『………決めた』
ミナトが短く、強く、決意に満ちた声をあげる。
『何をですか?』
『ボク達が作る新しい王国。ずっと考えてたんだ、自分がどんな王国を作りたいのかって。自分に問いかけ続けて、それでもボクの理想は曖昧で………だからアルシェに会いたかったんだと思う。ボクの本当の夢が、アルシェと一緒なら分かると思ったから』
『ミナト様の夢?』
『アルシェがボク達にしてくれたように………種族や生まれや貴賤に関係なく、皆の居場所になれる国を作りたいんだ。甘ったるい理想でも、子どもみたいな夢でも、アルシェが諦めず声をかけ続けてくれたように、ボクも諦めず進み続けたいんだ。だから………』
ミナトは自分の想いを確かめるように言葉を選び、そして意を決し続けた。
『アルシェ、ボクと一緒に来て。アルシェとなら理想を国を作れると思うんだ。もしも、ボクが理想を、夢を見失いかけた時には、いつもみたいに叱って欲しい。アルシェがいれば、きっとボクの本当の願いを、忘れずにいられると思うから』
「うぉぉぉぉっ!!なんか、ミナトの奴、凄えこと言ってんぞ、おいっ!!!」
「んっ、どう聞いても、愛の告白」
「でもこれ、そういう意味で言ってるんじゃないわよね………ミナトってワタシが想像してたよりも、ずっと大変な男の子かも」
デボラが雄たけびをあげ、リオは一人頷き、アルベラはため息を重ねた。3人を取り囲む無骨な冒険者達は折り重なるように身を寄せ合い、箱から漏れ聞こえる声を一音たりとも聞き逃さまいとしている。
『………私でいいんですか?』
「まあ、そういう反応になるわよね」
『アルシェじゃなきゃダメなんだ』
「うん、その答えはおかしいわね」
数秒の沈黙。
誰もがアルシェが次に紡ぐであろう言葉を待ちわび、呼吸をすることすら忘れている。
『………こんな時どう返せばいいか、分からないです。ですが、多分、私もミナト様と同じ気持ちなんだと思います………い、今はここまでしか言えません、も、申し訳ありません』
アルシェがたどたどしく応えると、ギルド内が一気に湧き上がり、あちこちで乾杯の声がこだまする。中には涙を流す者もいるが、その涙が喜びによるものか、感動によるものか、それとも悲しみによるものなのかは、当人にしかわかりえなかった。
「くぅぅぅぅ、良かったなぁ!!泣けるぜ!!飲むか、数十杯一気にいっとくかぁ!!!」
「んっ、勧誘成功」
「これ本当に成功?後に凄い禍根残す気がするんだけど」
アルベラが呆れ顔でリオを見ていると、バタンという激しい音と共にギルドの扉が開け放たれ、一人の男がもらい泣きをしているデボラに何かを伝えた。
すると、先ほどまでの空気は一変し、デボラの顔には怒気が浮かんだ。
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