商人の戦争
「これ以上は待てん!!今すぐ軍を率い、圧力をかけるのだ!!」
申し訳程度に飾られた調度品を吹き飛ばさんばかりの怒声が、天幕に響き渡る。
声の主はベスティアの長ザテトラーク。
対峙するのはブレニムの民の次期族長レティ、そして腹心バイムト。
平時であればミナトの元で重臣達が議論をかわす王都の中央に位置する一際豪華な天幕も、今は主人を失い僅かに3名の亜人が集うばかりであった。
「ダメ、ミナトはジェベル王国ともゴドルフィン帝国とも、対話を通じて友好関係を深めてきた。私達が人間と共存できる存在だってことも、交易のおかげで認知され始めてる。臣下である私達が、主であるミナトの努力を無駄にするわけにはいかない」
「くだらんっ!!自らの命を賭して主君を守ることこそ、至上の忠誠。我ら亜人がどう思われようが、そんなものは些末なこと。ブレニムの民が動かぬというなら、我らベスティア単独で動くまで。まずは国境を侵さんとする帝国と一戦し退ける。後顧の憂いを断ち次第、ジェベルへ進軍することで我が君を取り戻すのだ!!」
「私達はシンギフ王国の臣下、勝手は許されない。ミナトの命を聞けないのであれば、ブレニムの民の力をもってベスティアを止めなきゃいけなくなる。仲間同士で争うようなこと、ミナトが望むはずがないのは貴方だって分かるでしょ!!」
「二人とも落ち着くんだ。身内で争うことになれば、戻られた陛下になんと報告すれば良い」
レティとザテトラーク、狼と小型犬ほどの体格差のある二人が仲裁を無視し、一歩も退くことなく睨み合う。
犬猿の仲であった二つの種族が、再び元の関係に戻ろうとした刹那、天幕が入口が勢いよく開かれた。
「おいおい、あんまりにもお前らの喧嘩がうるせえもんだから、ゼダーンで昼寝もしてられねえ。まあいい、珍しく嬢ちゃんがまともなこと言ってんだ、加勢させて貰うぜ」
「ロイエ様!?マイヤーさんも??」
「お久しぶりです、皆さん」
ロイエは一層膨れ上がった腹を揺らしながら、マイヤーは引き締まった肉体をしなやかに動かしながら、無遠慮に天幕の中には入り、椅子に腰掛ける。
「ゼダーンの都市長が何故ここに来た。皇帝からの命か。混乱に乗じて我らの領土を掠め取らんとする算段なら、その身をもって愚かさを償わせるまで」
「ったく、話も聞かねえでピーチクパーチク、耳がキンキンしやがらぁ。この俺様が来たんだ、戦争なんて金にならねえ話なわけがねえだろ。まっ、帝都からはお前さんが言ったような荒事を催促する密書が山と届いたけどよ。ケツ拭く紙にもなりゃしねえから、薪がわりに全部燃やしちまったぜ」
「おかげで燃料代が浮きました」
ロイエは部下に自らのジョークを横取りされると小さく舌打ちをし、葉巻に火をつける。
「敵意はないと言うことか」
「ねえよ。戦争屋は、争いは金を生むやら御託を並べやがるが、交易より儲かるもんなんてねえ。お貴族様が好きな美辞麗句で飾るとすりゃ、足りない物を補い合うことで俺たちは助け合いながら生きてる、ってやつだ。どうだ、高尚な事やってる気になってきただろ?じゃあよ、お貴族様のやり方を見習って、足りない部分を補い合おうじゃねえか」
「ロイエ様に策あり、ですね!!」
レティはキラキラと瞳を輝かせながらロイエの前で膝を折る。
「何をすれば良い」
「簡単にいやぁ、テメェらの悪人面をズラッと並べて、こんな厳ついバケモノと戦なんてするのはバカのやることだって理解させてえ。ただ勘違いするなよ。今後の商売に差し障るような暴力は勿論、脅しもNGだ。せっかくイメージを良くしてやったんだ、強面だけど優しく愛らしいお友達だってラインは守れ」
「相変わらず無茶を言うな、人間」
「簡単な事を当たり前にやって稼げりゃそうするが、世の中そうは問屋が卸さねえ。難しい事をさも簡単そうにやってのける、ゼダーン商人のやり方って奴を帝都の戦争屋に見せてやるよ」
ロイエはそう言うと、顎にたっぷりとついた贅肉を震わせながら、分厚い笑みを浮かべた。
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