私欲の果てに
「最後に問います、姉様………いえ、クルブレール侯はどこに?」
「答えられんな。この中に北部の密偵がいれば、我らの手中にあったはずの勝利は跡形もなく消え去り、代わりに敗北と破滅をこの手に握りしめることになる。シャルロッテを国賊と断ずる檄文を連名で発し、運命を共にするまでは例えお前であっても教えられん」
「エルフリーデ様、もう良いでしょう。詭弁の種も尽き、言を左右にするばかり。これ以上の議論は敵に利するのみです。王女として、国政を預かる者として、ご決断なさるべきでしょう。サーダイン伯爵の処刑という決断を」
レオニードははっきりと処刑という言葉を口にした。その態度には彼の特徴である臆病ともいえる慎重さはなく、邪魔者を排除しようとする確固たる決意が漲っている。
「いや、レオニード伯、勝手は許さん。我々にも彼を問いただす権利はあるはずだ。無論エルフリーデ殿下は我らの盟主なれど、等しく国王陛下に仕える身分という意味では同志ともいえよう。それぞれの胸の内に燻る想いを握り潰しては、次なる叛乱の種を植えるようなもの。そうではありませんかな、殿下」
有力貴族の一人が半ば威圧するように同意を求めると、派閥の傘下にある貴族達が一斉に騒ぎ立て、再び議場内に不安な空気が満ちる。
「良いでしょう、許します」
エルフリーデはあくまで上位者が下位の者からの願い出を許可するという形で、発言を許した。
「感謝いたします。さて、サーダイン伯。卿は北部貴族は被害者だと言ったが、その理屈でいくとこの内乱の責は逆賊シャルロッテのみが負うこととなりましょうか」
ねっとりとした口から糸を引きそうな不快な質問が、聞く者の神経を逆撫でる。
しかし、サーダイン伯爵はその目的の見えない問いから瞬時に真意を読み取り、僅かに苦笑したのち年かさの貴族に向き直った。
「なるほど、貴公は英邁にも戦後処理にまで気にかけておられるのだな。ならば懸念無用。北部貴族は詐術により騙された哀れな子羊ではあるが、羊の皮を被り狐狼の悦楽を満たした無法者もいる。デシル侯爵、マックレイ伯爵、マルクウェル子爵、その他にも何名かの北部貴族が戦乱に乗じ私欲を満たさんと兵に民草を襲わせ、都市より金銀財宝を奪った。これらの罪状は俺がつぶさに調べあげ、証拠も保管している。戦後これらの者から領地及び財産の八割を取り上げ、論功行賞の褒美や被害を受けた貴族への弔慰金の原資となす」
淀みない回答に多くの貴族から感嘆の声が漏れる。
「なぜ八割なのです。それに領地を有するという事は爵位も有するということ。すぐにでも爵位を剥奪し、投獄すべきでは」
「どさくさに紛れ私服をこやさんとするような輩だ、窮すればそれこそ帝国と通じ、再び内乱を企図しかねん。守るべきものがあれば、損を如何に小さくするかのみに汲々とするだろうよ」
「ふむ、若さに見合わぬご慧眼、感服致しました」
老貴族は青年貴族の返答の内容よりも、自らが得られるであろう領地と財貨に思いを寄せ、満足そうに頷いた。
「私からもひとつ。戦後は我らジェベル貴族の結束が何よりも重要となるかと考えるますが、その障害となるものをどのように排除されるおつもりか」
自身より一回りほど年上の偉丈夫な貴族の一段と回りくどい口ぶりに、サーダイン伯は最早込み上げる笑いを堪えることはしなかった。
「クハハッ、よく気づいたものだ、尊敬に値する。非常に思慮深い発言ではあるが、南部貴族からシャルロッテや北部貴族に送られているであろう密書をどうするかと、つまりはそういう意図がおありと拝察する。そのことについても問題ない。情報の集約化のため、それらの密書は全て我が手元に保管してある」
「なんと………」
絶句、そして沈黙。
それもそのはずである。
目の前の青年貴族は、涼しい顔で彼ら南部貴族の急所に合口を突きつけていると宣言したのである。
「安心しろ、恋文の中身を改めるほど無粋な男ではない。俺が宰相となった暁には、初仕事として卿らの前で密書を全て焼こう。もし一通でも残れば、それは卿らの罪ではなく、信頼を裏切った俺の罪。その時は潔く宰相の座を退こう」
「おおっ、私心なきお言葉、しかと承った」
安堵、そして追従。
貴族達の空気が急速に変容していく。
内乱に勝てるのか、自分達はどうなるのか、という眼前の不安が霧散し、代わりに戦後自らが得ることの出来る利益について、軍議をしていた時の数倍数十倍の真剣さをもって脳内で緻密に組み立てていく。
誰もこの場に集められた当初の目的、サーダイン伯爵の審問などは、すっぽりと頭から抜け落ちていた。
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