逆賊シャルロッテ
「アーハッハッハッ!!甘いな、エルフリーデ。今この場を収めるためには俺が虚偽を述べていると言い張り、最悪殺してでも発言を止めるべきだった。死人は口を聞けんからな。しかし、お前はしない、できない。それがお前の限界だ。国王より国政を任されたと宣言し、シャルロッテと国賊とし、全尚書との連名で追討令を発する。異を唱える者は近衛兵を使い誅殺し、真実ではなく事実により王権を奪う。これがお前がやるべきだった事だ」
エルフリーデは何かを言い返そうと口を開くが、その何かを言語化することが出来ず唇を噛む。
「この場で判明したこと、それはこの場にいる全ての貴族の立場になんら重みの違いなどないと言うことだ。ジェベルを率いることが出来るのは国王ジグムンド3世ただ一人。その下に仕える我らは等しく一臣下に過ぎん。王女だろうが、男爵だろうがな。そこで卿等にひとつ蜜のように甘い提案をしてやろう。ここには主だった尚書が集まり、王女がいる。何より俺がいる。ならばやるべき事はひとつ。我らの連名により正式にエルフリーデを国王代行と認め、その権限の元にシャルロッテを国賊とし、追討令を出す。そして俺を宰相とし、この内乱の処理を任せる………いや、押しつける。後は論功行賞含め、全て完璧に差配してやろう」
流れるように紡がれる新しい真実を前に、居並ぶ貴族達はそれを受け入れるか否かを懸命に思案する。
サーダイン伯が創造する『真実』は彼らの理解の範疇を超えており、どう判断を下せばよいか互いの顔色を窺う。
「ひとつ宜しいか。大まかな流れは理解した。エルフリーデ殿下を主となすこと、シャルロッテ殿下………逆賊シャルロッテを討伐すること自体は、現状の追認にすぎぬため皆も飲み込むことは容易だろう。しかし、サーダイン伯。貴公が宰相に就かねばならぬ理由が見えてこぬ。そもそも貴公が我らの仲間のような顔をして、この場を取り仕切っていることに不満を持つものも多い。レオニード伯の言葉通り、自身の罪から逃れるため突拍子もない理論を展開し煙に巻こうとしているのではないか」
壮年の貴族が努めて冷静な物言いで、貴族達の疑問を代弁する。
発言が終わると議場内には拍手が響くと、これまで作り上げられた狂騒的な空気は揺らぎ、返答次第では天秤がサーダイン伯を処すべしという結論に傾く事も考えられた。
しかし、その青年貴族は自身に向けられた圧に対し眉ひとつ動かすことなく、再び言葉を紡ぎ出す。
「良い質問だ、答えよう。まず第一に俺を含め北部貴族は悪逆なる第一王女シャルロッテに騙された被害者に過ぎん。先ほどの書状からも分かるように、国を守らんと欲すればシャルロッテを旗頭とすること自体を罪とすることは出来ないだろう。つまり我ら貴族は、南北という見えない壁に隔てられながらも祖国ジェベルを愛する気持ちは同じなのだ。だが、奴は国を裏切った」
「国を裏切ったとは、国王陛下を暗殺しようとしたことですな」
「いや違う。仮にそれが真実であったとしても、少なくとも北部貴族や俺にそれを知る術はない。俺がシャルロッテと袂を分かったのは、奴の許されざる罪を知ったからだ」
「許されざる罪とは?」
「売国………奴は帝国へ王国を売り渡そうとしたのだ」
議場を大きなどめよきが包み、一人の老貴族が俯く。
「シャルロッテの裏切りとは、後背の安全を確保し、戦況によってはフォルティノ街道から帝国からの援軍を受けるという密約に他ならない。見返りは王国の土地、権益、そして新しく王位に就く自身と皇帝との婚姻。前王妃クラウディアと親子で同じ罪を犯すこととなったのは運命の皮肉か、それとも血筋か………俺は帝国との密書を手に入れ、その事によりシャルロッテに正義なしと確信し、身柄を抑えジェベルのためにここに来たのだ。売国奴を見抜き、証拠を掴み、真の敵を出し抜き犠牲を出すことなく捕え、早期に内乱に終止符をうつ。宰相の座を求めるに、これ以上の功績はあるまい」
「………確かにその通りです。それがでっちあげで無ければ。もし貴方の作り話だとすれば、その首は永遠に胴体と離れ離れになることは承知のうえの発言ですか」
エルフリーデはサーダイン伯の前まで歩み出て、真正面から瞳を見据える。
「無論」
「密書はどこに」
「シャルロッテの身柄とは別に厳重に守らせてある」
「何故この場に持参しないのです。そんな物はないからでは?」
「どうした、何故俺を疑い、姉を信じる?討伐軍まで出しておきながら、まだ奴の善性を信じたいと言うのであれば、到底あの女狐に勝つことは出来まい。密書は俺の生命線にして、ジェベルの生命線でもある。王都が陥落すれば、密書の存在ごと闇に葬られ、ジェベルは帝国に食い荒らされるだろう。故に軽々に持ち運ぶことなどできん相談だ。しかし、北部貴族が自領を空にし全兵力で出兵しているにも関わらず、帝国が動く気配すら見せぬのは、密約の存在を何よりも雄弁に証明している。違うか?」
王冠のように輝く金髪と、それを飲み込まんばかりに燃え盛る赤髪。
議場の中央で対峙する二人の姿を、取り囲む貴族はただ眺めることしか出来なかった。
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