審問
「ほぅ、ここが噂の高等法院か。因習が凝り固ったかのようなくだらぬ場だが、意匠だけは中々どうして美しい。俺が宰相になった暁には、愚にもつかぬ裁判もどきのためではなく、建物の持つ品格に相応しい有意義な用途を考えてやろう」
叛乱軍の事実上の総指揮官は、自身に突き刺さる無数の敵意と悪意をものともせずに、王冠のようにたなびく金の髪をかきあげる。
「まさか敵地に一人で乗り込んでくるとはな。命乞いでもするつもりか?」
「審問など必要ない!!今すぐ処刑せよ!!」
「待たれよ、話を聞いてからでも遅くはない」
「その通り、サーダイン伯は北部貴族きっての名士。もし我々が感情に流され裁判も経ずに処したとあらば、和睦の道は完全に断たれよう」
「静粛に!!些か異例のことではあるが、今より高等法院の権限に基づきサーダイン伯の審問を執り行う。始祖ジェベルに誓い、虚偽なき真摯な態度で臨むことを求める」
「始祖ジェベルに誓って」
サーダイン伯は高等法院長に向かい堂々と言い放つと、取り囲む貴族の顔を一人ずつ確認していく。
「自分一人の手に負えぬと理解したことは褒めてやろう。だが、能無しであろうと数だけ揃えれば俺に勝るという結論に至ったその知能には辟易するがな」
「口を慎みなさい、貴方はいま審問を受ける立場。ただ聞かれた事に答えればよいのです………さぁ、始めなさい」
王女の命を受け、貴族の互選により任命される名誉職でしかない高等法院長に最も運の悪い時期に就いてしまった老貴族が、自らに課せられた使命の重さに背を丸くしながら恭しく頭を下げる。
「かしこまりました。サーダイン伯爵に問う。汝は叛乱軍を指揮する身にも関わらず、何故自軍を裏切り投降する道を選んだのか」
「くくくっ、ここまでズレた問いとなると笑わずに答えるだけで一苦労だが、愚人にも労を惜しまず付き合ってやるのが賢者の徳というやつだ。まず裏切りとは思い違い甚だしい。俺が忠誠を誓うのはジェベル王国国王ジグムンド3世ひとり。ここへは王への忠義心より馳せ参じたに過ぎん」
「発言に矛盾があるのではないか?王に忠誠を尽くすのであれば、何故王を害した叛乱軍に与し、王都へと兵を向けたのか」
「知れたこと。王の暗殺を企て、王位の簒奪を図った賊を討つために他ならぬ」
サーダイン伯の発言に議場が再びざわめき立つ。
「言うに事欠いて我らを賊扱いする気か!?恥を知れ!!」
「静粛に!!サーダイン伯爵、貴公の発言は我々の知る真実と異なるが………」
「真実など関係ない。一番強い者が定めた事こそ真実、それが政治だ。つまり、この場では俺が口にする全てが真実となるという事だ。しかし、そうは言ってもすぐには納得できまい。この書簡を証拠として提出するとしよう」
豪奢な装飾がなされた一枚の羊皮紙が宙に舞い、役人がそれを床に落ちる前に両手で掴むと、法院長に手渡す。
「こ、これは………」
老貴族は羊皮紙に書かれた内容を見るや、言葉を失う。
「拝見いたします」
レオニードは硬直する法院長から書簡を強引に奪うと、中身を検める。
「これは国務尚書から発せられた国書!?………国賊エルフリーデを討ち、王都を解放することで、王への忠節を示すべし………。玉璽の印影にも間違いはありません」
「貸しなさい」
エルフリーデは動揺に震える指で羊皮紙を引き寄せる。
そこにはレオニードの言う通り、国王暗殺の疑いにより第二王女であるエルフリーデを討伐せよとの命が記されていた。
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