四罪の残したもの
「もう少し確かめたいことがあるので、お付き合い願います。あっ、ご心配なく、すぐに終わるので」
女はまるで街頭アンケートを依頼するような気軽さで話しかける。
「ボクには戦う理由がないよ」
「ご安心ください、命のやり取りまでする気はありません。ですが、私はTPOに合わせて全力でいったりいかなかったりするので、たまたま力が入りすぎて殺してしまった場合は、ご容赦頂ければ。後そちらは男性ですし、私はか弱い乙女なので、その辺の空気も読んでください」
「いや、それはご容赦出来ないかな!?それに君の方が強いと思うけど………」
冗談を飛ばしながらもミナトは相手の武装や動きを隈なく観察する。
手にはクナイ、背中には大ぶりの刀、そしてアニメや漫画に出てくる女忍者のテンプレートのような、手足と胸を大きく露出した装束を纏っている。
「武器をお持ちでは無いのですね、私の刀をお貸ししますので、ご自由にお使いください。少々変わった形状をしてますが、弘法筆を選ばずと言います。神託の勇者ならば難なく使いこなせるかと」
無造作に投げられた刀を受け取り鞘から抜き放つと、刀身からかぐわしい匂いがたちのぼる。
刀に薄っすらと浮かび上がる刃紋は見惚れるほど美しく、これが数打ちの粗悪品でない事を物語っていた。
(この世界に似つかわしくない奇抜なファッション、この世界の住人が知るはずのない諺、そしてこの世界には存在しないはずの日本刀………つまりこの人は………)
「では、参ります」
瞬間、目の前から女の姿が忽然と消える。
(瞬間移動??いや、幻術か!?………視覚に惑わされちゃダメだ。相手の得物が何であれ、実体が存在する以上、近づけば必ず空気の流れが変わる。神経を研ぎ澄ませ、気配を察知するんだ………来るっ、右後ろ!!!)
刀が美しい曲線を描き、何も存在しないはずの空間へと振り下ろされると、ガキリと金属がぶつかり合う音が響く。
「良い勘をしていますね。スピードも試させて下さい」
透明な空間が視覚で認識できないほど微かに歪むと、ミナトはその歪みに合わせ刀を振るう。
切り下ろし、刺突、突き上げ、そして投擲。
恐らく先程手にしていたクナイによるものであろう連撃が、絶え間なくミナトを襲う。
(見えない………でも分かる、反応できる!!)
「攻撃はしてこないのですか?守ってばかりでは勝利は掴めませんよ?」
「言ったよね、ボクには戦う理由がないって………それに正直なところ受け切るので精一杯で、攻勢に回ったらあっという間に負けちゃうからね」
不可視の攻撃を、洞察と勘により全て防ぎ切ると、女は僅かに不満げな表情を浮かべつつ、再び姿を現す。
「ありがとうございます、だいたい分かりました。………テストの結果、知りたい系ですか?」
「テストって………ボクは結構必死だったのに。結果も聞きたいけど、なんでテストされたかも一緒に教えて貰えると嬉しいかな」
「我々『四罪』は六代魔公を倒すことの出来る人材を探しています。いわゆる『神託の勇者』ってやつです、シンギフ国王ミナト陛下。貴方が六大魔公の一人、鮮血公『金色のアルベラ』を封印したと聞き、任務ついでにどれほどのものか手合わせをと思ったのですが………」
「ガッカリした?」
女はミナトの問いに素直に首を縦に振る。
「はい、それなりに。少なくとも竜鱗級を上回る強さかと楽しみにしていたのですが、甘めに見積もってオリハルコン級、実際はミスリル級が精一杯といった手応えでした。正直どうやってアルベラを退けたのか、想像もつきません。ひょっとして敵側に寝返ってたりしてます?」
今度はミナトが無言で首を横に振る。
「でしょうね。そんな事が出来るほど器用なタイプにも見えませんので、ホッとしました。こう見えて、男性を見る目はあると自負してますから。なんといっても、四罪のお色気担当ですし」
「そんな役割があるの!?」
「勿論です。師匠曰く、ヘラヘラ系強キャラとお色気枠はマストらしいです。ちなみにこのバカみたいな衣装も師匠の趣味です。私はこれを着ないと修行をつけないと脅されて嫌々袖を通してるだけなので、悪しからず」
「ひとつ聞きたいんだけど、師匠って………」
「自称パワハラとセクハラの権化、昭和の遺物………貴方にはそう言えば伝わると。そしてコレが本題なのですが、今回の騒動には六大魔公が関わっています」
「六代魔公が!?」
「はい、彼らの目的は分かりません。六代魔公のうち誰が暗躍しているかも不明です。しかし、彼らはこの騒ぎにつけこんで何かを企んでいます。もしくはこの内乱自体が彼らの目的なのかも………いや、推論に推論を重ねるのは愚か者のすることですね。師匠は言いました、貴方がもし本物の神託の勇者であるならば、この事を伝えるだけで事足りると。そして、私達はまたすぐに会うことになるとも。では、私の用は終わりましたので、失礼します」
「あっ、待って、まだ聞きたいことが!!……………行っちゃったか。って、コレなに!!??」
煙玉を地面に叩きつけ黒煙に紛れた女性が姿を消した後には、微かな甘い香りと皿の上に乗せられたおはぎだけが残されていた。
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