守るために
ミナトは自分を落ち着かせるように息を整える。
改めて対峙する男を観察すると、敵の巨躯に威圧感を覚えずにはいられない。両者の体格差は圧倒的であり、身長は頭ひとつ違い、体重に至っては倍ほどの差があるだろう。
両肩の筋肉は力を誇示するかのように大きく盛り上がり、露出した腕は無数の刀傷に飾られている。金等級の識別票を首から下げているミナトに対し気後れしていない事からも、かなりの手だれであることは間違いないだろう。
加えて、ミナトは男の仲間を倒すために、飛び道具という重要な手札を晒してしまっている。純粋な戦士ではないミナトにとって、これは大きな不利であった。
(初手でアイツを潰すべきだったか?いや、今はそんな事を考えてる場合じゃない。この場を切り抜けて、アルシェを助ける事だけを考えるんだ)
ミナトは自らが救うべき少女の名を心に浮かべ、愛用のショートソードを固く握りしめる。
4人いた敵のうち、2人は投石により意識を絶たれ、1人は少女の逃走を阻止するという態で身を隠しているため、目の前の頭目を倒せばすぐにでも逃げ出すだろう。
格上と思われる相手との、1対1の命を賭けた戦い。
数日前のミナトであれば恐怖で震えあがるような状況だが、不思議と焦りも恐れも込み上げず、ただ相手をどう倒すべきかという思考のみが脳内を支配していた。
(そうだ、アルベラを相手にすることを考えれば、子どものままごとみたいな物じゃないか)
ミナトはフッと笑みを漏らすと、肩を二度三度上下させ、大きく呼吸をした。
「喧嘩を吹っ掛けときながら、そっちから来ねえのか?おい、その女はどうなってもいいんだとよ、適当に顔でも刻んでやれ」
男が後ろに控える仲間に命令すると、気弱そうな仲間はその言葉の真意を測りかねつつも、手にした短剣をミナトに見せつけるように少女の顔に近づける。
「アルシェ、屈んで!!」
叫ぶような指示と共に、2本の投げナイフが風を切る。
「ちいっ!!」
男に向けて投げられたナイフは頬を掠め、もう一本は少女に短剣を突きつけている仲間の肩口に深々と突き刺さる。
「今だ、逃げてっ!!」
ミナトの言葉に少女が走り出す。
「油断しやがって間抜けが!!………………くうっ!!!」
男の一瞬の逡巡につけこみミナトは太腿を狙い剣を振るうが、その一刀はギリギリのところで防がれる。刃と刃が交錯し、鈍い金属音が静寂に溶け込んでいった。ミナトはすぐさま追撃を試みるが、男は崩れかけた姿勢を頑強な体幹で引き戻し、攻撃に意識の向いたミナトの腹部に蹴りを喰らわせる。
ショートソードの軌跡と男の蹴りが描く曲線がそれぞれ相手を捉え、剣先は男の腕に刀傷を一つ増やし、足先はミナトの身体に強かな衝撃を与えた。
(浅かったか!?)
互いに態勢を立て直すため距離を取り、呼吸を合わせたかのように剣を構え直す。
「ただのガキじゃねえな。舐めてたことは認めるぜ。ただもう底は見えた。次で殺す」
男はそう言うと剣を後ろに引くように半身に構えると、ミナトに向かい突進する。
(ダメだ、急所が見えない!!ボクの力じゃ、中途半端な一撃で革鎧を断ち切って致命傷を負わせるのは難しい………それなら)
ミナトが膝を曲げ体勢を低くすると、不意に男の顔の横を一筋の光が通り過ぎ、男は何が起こったのか理解できないかのように身体を硬直させた。
次の瞬間、ザクリという刃物が肉を引き裂く音が路地裏に響き、男は潰れたカエルのような悲鳴をあげ地面に膝をつく。
ショートソードの刀身が赤く彩られ、地面が血で染められていく。
「しばらく寝てて」
男の後頭部にショートソードの柄頭を振り下すと、男は糸の切れた操り人形のように垂直に崩れ落ち、ミナトは肩から血を流しながら這うように逃げる仲間を捕まえ、同じように意識を奪った。
「………助かったぁ」
ミナトは未だ変声期が終わりきっていない甲高い声で呟くと、全身の力が抜けたかのようにその場にへたり込んだ。
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実際剣で斬られるのってどれだけ痛いんですかね?注射ですら痛いですし、想像すらしたくないです…




