逡巡
背後から突然呼び止められたミナトは、胸の内の動揺を悟られないよう悠然と振り返る。
しかし、そこには人影はなく、薄暗く汚れた路地だけが広がっていた。
(相手はボクじゃなかったのか?でも声は近かった。巻き込まれると不味い、すぐにこの場を離れて………)
「大人しくしろ!!地面に膝をつけ!!」
怪しい人間を呼び止めるためだけの言動としては、あまりにも居丈高で暴力的な物言いに、ミナトは反射的に足を止め、物陰に隠れ様子を窺う。
「やめて下さい、私は何もしていませんっ!!住んでいた街に軍隊が押し寄せて来たので、王都の親戚を頼って来ただけなんです!!」
(獣人の女の子………アルシェよりも幼いくらいだ)
腕を掴まれている少女の頭部には獣人であることを示す灰褐色の毛に覆われた大きな耳があり、衛兵は少女の生まれを揶揄うように何度も耳を触っては、嫌がる姿を見て笑っている。
「親戚だぁ?王都にお前みたいな理性のない獣が何匹もいるってのか。ハイペリオンの治安も地に落ちたもんだな」
「こいつは混ざり者だな。どうせ娼館生まれのガキが、顔も知らない父親を頼ってきたってとこだろ。まあ、その男は安物の娼婦を買っただけで、お前のことを子どもだなんて微塵も思ってないだろうがな」
「違います!!私は………」
「うるせえ、別にお前が誰かなんてどうでもいいんだよ!!俺らの仕事は王都に侵入した北部の密偵を捕まえて尋問することだからな」
尋問という言葉に少女の顔が青ざめる。
男達の視線は既に王都の平和を守る衛兵のものではなく、手に入れた戦利品を値踏みする賊のものになっていた。
「私はそんなことしてません!!」
「犯罪者は皆そう言うんだよ。ましてや混ざり者の言うことなんざ、信じるわけがないだろ。怪しい物を持ってないか、改めさせて貰うぞ」
「いやっ!!やめてっ!!」
男達は少女を組み伏せ、一人は上半身の、一人は下半身の衣服を剥ぎ取っていく。
林立する建物の隙間から微かに差し込む光が、少女の日に焼けた肌を艶めかしく照らし、欲情をそそられた男達はまだ育ちきっていない乳房を力一杯摘み上げる。
「痛いっ!!」
「うるせえな。混ざり者は面こそいいが、情緒ってやつが足りなくて困るぜ」
「おっ、通行許可証を持ってやがる。王都に親戚がいるってのもあながち嘘じゃねえかもな」
「そうです、嘘じゃありません!!分かったなら早く離してください!!」
少女の懸命の懇願にも男達は肢体を弄る手を止めず、むしろ一層激しく秘部にまで手を回す。
弱々しい抵抗は、男達にとっては嗜虐心をくすぐる最高のスパイスとなっており、怯える少女の表情を愉しむように、わざと焦らしながら反応を確かめている。
「おい見ろよ。よくよく確認したらこの通行許可証は偽造品だな、明らかに。そうだろ?」
「間違いないな。まっ、今日のところは見逃してやるから、ちょっとだけ相手しろ。意地張らずに大人しくしてりゃ、半日もしたら家に帰してやるよ」
「おっ、暇してる奴らも誘う気か。いいねえ、スッキリさせてやる代わりに、借りた金をチャラにさせるか。とりあえず、俺らで使ってからでいいだろ。あらよっと、ちょいとチクっとするが我慢しろよ。叫んだりしやがったら、前歯全部ぶち折って二目と見られねえ顔にするからな」
「痛いっ!!やめてっ!!助けてっ!!」
悲痛な叫びがミナトの心をかき乱す。
(助けないと!!でもどうやって!?荷物を確かめられても問題ないように剣もスリングも置いてきた。全くの丸腰だ、この状態で勝てるか??それに長引けば増援が来る。土地勘のないなか逃げ切れるか??捕まれば今度こそ監禁される。ボクの命は保証されたとしても、エランさんが見つかれば下手すると………」
ザッ
脳裏に次々と浮かぶ雑念を振り払うように駆け出す。
「なんだ、テメェは!!」
走りくるひとつの影を視界に捉え、男達は腰に帯びた剣を抜いた。
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