始祖の加護
城壁に黄バラの紋章がはためくと万を超える軍勢から一斉に勝鬨が上がる。
シャルロッテが天地を裂かんばかりの大歓声に応えるべく、馬上で天に向け剣を抜き放つと、光を纏い天から金の王冠を被せられたかのような神々しい姿に更なる轟音が響き渡る。
「おおっ、シャルロッテ様、こんな前線まで玉体を運ばれては、警護の物が生きた心地がしませぬぞ。いつ流れ矢が飛んでくるかもしれません。何卒後方の本陣で吉報をお待ち下さい」
僅かな従者と共に最前線へと歩を進める王女に対し、今回の内乱の口火を切ったガルバ侯が声をかける。
「ガルバ侯、お気遣い感謝いたしますわ。ですが、この戦は不当な手段で奪われた名誉と誇りを取り戻すための聖戦。正統なる王家のもと、無実の罪を着せられ処刑された母の無念を晴らし、簒奪された王権により虐げられてきた北部貴族の権利を奪い返さなければなりません。ワタクシだけが安全な場所で勝利を願うなど出来ない相談です。それに始祖ジェベルは正しき者の守護者です。きっとジェベルの加護により、何もせずとも矢の方がワタクシを避けていくでしょう」
金の髪を風に靡かせる少女は、まるで平時と変わらぬ調子で冗談を言うと、にこやかに笑う。
「なんと頼もしきお言葉!!皆の者、聞いたか!!我らは正統なる王家の剣、ジェベルの加護を受けし者!!この戦の勝利は間違いないぞ!!」
何度か声が裏返りながらもガルバ侯が檄を飛ばすと再び勝鬨が上がり、彼らが盟主として崇める少女を讃える言葉が街中を覆っていく。
シャルロッテが歓声に背を押されるように小高い丘の頂上へと馬を進めると、その瞳が一筋の光が捉える。
「シャルロッテ、覚悟っ!!!」
低い風切り音が歓呼の声に掻き消され、一本の矢が王女の胸に突き刺さる………はずであった。
しかし、シャルロッテが瞳に入った僅かな輝きに気を取られ振り向いたことにより、一直線に心臓を貫いていたであろう鋼の鏃は虚しく空を切り、誰一人傷つけることなく地面へと落ちた。
「シャルロッテ様、お怪我はございませんか!!」
「何者だっ!!矢を放った者を捕えよ!!」
「南部の刺客だ、生きて返すなっ!!」
一本の矢により瞬時にして喝采が怒号へと変わるなか、その怒号を一言で信仰へと変えたのは一人の少女であった。
シャルロッテは下馬すると自らを襲った矢を掴み、それを光に照らしまじまじと見つめると、再び愛馬に跨り矢を頭上に掲げる。
兵士達は王女より発せられる言葉を聞くために静まりかえり、馬すらもいななくことを止めた。
その場にいる全員の視線が自らに集まったことを確認したシャルロッテはゆっくりと口を開く。
「この矢は始祖ジェベルにより放たれた物です。鏃に刻まれた文字をご覧ください。勝利を示すVの刻印が白銀の輝きを帯びています。始祖ジェベルが勝利に浮かれる我らの心を引き締めんがため、そして我らの勝利を祝福せんがために放った贈り物に相違ありません。今日の勝利を偉大なる我らが父祖ジェベルに!!ジェベル王国に栄光あれ!!」
再度鼓膜を突き破らんばかりの大音が大地を揺らす。
いつまでも鳴り止むことのない勝鬨のなか、シャルロッテは屈託のない笑みを浮かべながら、微かに震える手で手綱を強く握りしめた。
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