キャンドルサービスは美少女と共に
「これで良い?」
部屋の中央にうず高く積まれた絨毯を前にミナトはエルムに確認する。
「まぁ、いいわ。これで準備が出来たわね、真言が創造する世界の理の一端を見せてあげる。クレス ヘルカタ サーバル タクム ファフネ マーバルス………」
エルムの紡ぐ真言が浮かび上がり、世界を分解していく。
無数の文字が一人の少女を中心に渦巻き、唱えられた言葉に基づき現象を再構築する。
「火が………」
「成功ね」
絨毯が真紅の炎に覆われ、激しく煙を上げる。
瞬く間に大きくなった火柱は積み上げられた布を飲み込み、その勢いは一呼吸毎に強くなっていく。
「………いや、これ放火じゃない!?火がないところに煙を立てるって、思いっきり燃えてるけど!?」
「ふんっ、素人ね、真言の本質を全く理解できてないじゃない。良い?真言はこの世界のルールそのものを自由に書き換えることが出来るの。そう、例えば炎の性質だって、自由自在にね」
「ルールを書き換える?」
ミナトの鸚鵡返しにエルムはわざとらしく溜息をつき、教鞭を片手に出来の悪い生徒を導く教職者のような態度で、燃え盛る炎を指で救う。
「何やってるの、危なっ………どういうこと、熱くないの?」
皮膚を焼き、肉を焦がすはずの炎は、指先に留まったまま怪しく揺らめく。
「この炎には布しか燃やせないってルールを付与したの。ここに積み上げた布を燃やし尽くせば自然に消えるわ。もし延焼したとしても建物には影響しない。火事を演出して、部屋から脱出する口実にするには最適でしょ?」
「凄い………これが真言の力………」
「ふふんっ、私の価値を改めて知ったようね。これだけ派手に煙を出せばすぐに誰か気づくでしょ。後は任せるわ。私は転移魔法で戻るから」
エルムは胸に手を当て、余裕のある笑みを浮かべた。
「………エルム、この炎って自由に消せるんだよね」
「何よ、いきなり。そんな性質は付与してないから無理よ。全裸になりたくなかったら、燃え移らないよう気をつけるのね」
「いや、その、胸が………」
「へっ、胸?」
エルムは視線を自らの薄い胸へと落とす。
その視界には、メラメラと音を立て巻きつけた布を捕食するように勢いを増していく、真っ赤な炎が広がっていた。
「………熱っぅ!!えっ、熱くないけど、燃えてるっ!?」
「落ち着いて、人体には無害って自分で言ってたでしょ!?とにかく早く脱いで………」
「キャーーーーッ、変態っ!!!どさくさに紛れてまた私の裸を見る気ね!?自分で何とかするから、離れてて!!!火、火、火を消すには………空気を遮断すればいいの、つまりこうよ!!」
エルムはベットからシーツを引き剥がし、自身の身体を軸にし、巻きつけるようにクルクルと回転する。
「発想はいいけど、それだと上下から常に新鮮な酸素が………燃えてるっ!!むしろロウソクみたいになってるから!!!」
シルクのシーツに包まれ円筒状となったエルムが、ロウソクの如く上部のみ火に覆われる。
「何これ、どうなってるの、見えない!!見えないんだけど!!!」
自ら視界を塞いだエルムが、半ば身体を拘束された状態でドタバタと暴れ回り、それがちょうどキャンドルサービスにより火を配り歩くような形となり次々と炎を広げていく。
「何事でございますか!?この煙、いったい何が………火事!?火事です!!早く誰かを呼んで………きゃあ!!」
部屋に入り火事を知らせようと叫ぶメイドに、その場から逃げようと走り出したエルムがぶつかり、メイド服へと火が移る。
「火がっ!!皆逃げて、火事よ!!!」
「何よあれ!?火の塊が走ってる!!!」
「そんな事より早く神官隊を!!すぐに消し止めないと、他の部屋にもっ………痛っ!!」
「ちょっと貴方の服にも火がっ………もうダメだわ、私達じゃ消せない!!」
「とにかく魔法が使える人を呼んできて!!!」
ミナトの眼前は炎の海と化し、恐慌状態となったメイド達が悲鳴をあげながら逃げ惑う。
その中を火の塊となったエルムが走り回り、城内は混乱の渦に飲み込まれていった。
最早自分の力ではどうしようも出来ないことを悟ったミナトは、チベットスナギツネのような表情で最小限の荷物をまとめると、真紅の焔と漆黒の煙の中へと姿を消した。
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