母の教え
「2人は何をして遊んでたの?」
「えっ?何をしてですか?」
シャルロッテはミナトの問いを予想すらしていなかったのか、しばし黙り込んだが、やがて固く閉ざしていた記憶の扉が開いたのか、棚に飾られた人形を手に取り、ベットの上にポンと置いた。
「ミナト様、ミナト様、思い出しましたわ。ワタクシこんな事も出来ますのよ。コンチニハ ヘイカモ イッショニ オドリマセンカ?」
シャルロッテは口を真一文字にし喉を震わせながら、操り人形を自在に躍らせる。
「腹話術!!それにそれ操り人形だったんだ!?芸がハイブリッド過ぎない??」
「ナイスリアクションですわ、妹もとても褒めてくれましたの」
「凄いけど、なんか思ってたのと違うかも!?なんていうか、一緒に本を読んだり、レースとか編んだり、お人形の着せ替えごっことかしたり、そういうのを想像してたよ」
ミナトのステレオタイプすぎるお姫様像にシャルロッテは僅かに怯んだが、すぐに気を取り直し二体の人形で舞踏会のワルツを再現してみせた。
「貴族たるもの多芸であれ、これが母の教えですの。もちろんミナト様が思うような可愛らしい遊びもしてましたのよ。お互い新作ポエムを発表しあったり、口うるさい侍女ランキングを作ったり、バレないイタズラを考えたり、時には実践したり」
「そんな事してたの!?お姫様の触れると壊れそうな繊細なイメージが崩れるなぁ………」
ミナトが溜息混じりに頭を抱えるとシャルロッテが思わず噴き出す。
「ミナト様、夢みがちですのね。王族とは常にストレスと戦っておりますの。ですから、周りの目を盗んでは皆はっちゃけますのよ!!」
「王族って全員そうなの!?知って良かったような、知りたくなかったような………」
「妹と騎士ごっこをしたこともありますのよ。こんなふうにっ!!いきますわよっ、とりゃ!!」
戸棚に飾ってある訓練用の小さな剣を手に取り、避けることの出来ないミナトのおでこをコツンとつつく。
「ううっ、卑怯だっ!!」
「ふふふっ、勝った者が正義ですのよ!!今のミナト様相手なら一本取り放題ですわ。………ワタクシの剣術はお母様に習ったものです。王族としての心構えも、立ち振舞いも、人生の全てを母に習いました。もしお母様と同じ強さがあったのなら、もっと早くこの答えを導き出せたのかもしれません」
シャルロッテがかけがえのない思い出を一つずつ整理していくように、人形や剣を戻していく。
その横顔には先ほどまで見せていた稚気は既になかった。
「シャルロッテは強いよ。ボクは昔から考えることが嫌いで、未来のことなんて絶対にイメージしないようにしてた。明日から目を背けるために、ただその日その日を懸命に生きていた。その事に後悔はないけど、王としてそれだけじゃ駄目だってことをシャルロッテに教えられた。忘れたい過去も、見たくない今も、想像出来ない未来も、為政者であれば受け止めなければいけないってことを」
「ありがとうございます、ミナト様の言葉には嘘がないからこそ、ワタクシはこんなにも惹かれてしまうのでしょうね。………ミナト様、ワタクシは遠回りをしました。目の前に答えがあるのに気づかないふりをして、多くの混乱を生み、悲劇を種をばら撒いてきたのです。ですが、それももう終わりです。ワタクシは奪う者の責務から逃げません。それがお母様から教えられた………いえ、一度は忘れようとしたワタクシとお母様の絆なのです。ミナト様、どうかワタクシの選択を見ていてください。それがミナト様が思い描く理想の国作りに少しでもお役に立てたのであれば、これほど嬉しいことはありません」
「うん、見てるよ。約束する。だから、本当に苦しくなったらボクに言ってね。どんな事があっても助けに行くから」
シャルロッテはミナトの言葉を噛み締めるように深く頷くと、手を引き寄せ、強く握りしめた。
面白かった、これからも読みたい、AI先生による絵が可愛いと思った方は是非、☆評価、ブックマーク、感想等をお願いいたします!!
基本毎日投稿する予定ですので、完結までお付き合い頂ければ幸いです。




