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異世界ハーレムは義務です~0からはじめる建国物語~  作者: 碧い月


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発露

「失礼しました、姉様。必要もない昔話のせいで多少動揺いたしました。まさか私をこの忌まわしい場所に呼び出しておいて、つまらない思い出を語らおうとしたわけではないですよね?」


 取り繕った平静のなかに覆い難い怒りを含んだ問いかけ。

 シャルロッテは、怒気を孕み一層赤く燃え盛るエルフリーデの瞳から目を逸らすことなく、真正面から見据える。


「エルフリーデ………ワタクシは今日お父様に、ファロス公爵位受爵の辞退を伝えるため王都に来たのです」


「………………仰っている言葉の意味が理解できませんが」


 灼けるような憤りが冷たい言葉となって口から零れる。そこには自らが焦がれた宝物が、他者によってぞんざいに扱われることへの、拭いようの不快感が込められていた。


「姉と妹で争うことをお父様は望んでいないわ。きっと、亡くなったお母様達も………。このままでは、どちらが国を継いだとしてもわだかまりが生まれ、やがて次なる悲劇が生まれる………いえ、もう言葉を取り繕う必要はないわね。内乱が起きるわ。この国に住む人々を二分し、やがて全てを不幸へと導くような大内乱が………。ジェベルは一人の王が継ぐべきなの。そして、王になるべきはエルフリーデ、貴方よ」


「………ふふっ、あはははははっ!!!!」

 

 乾いた笑いが狭い室内に反響する。

 それは喜びから生まれたものではなく、感情の発露ですらなく、ただ自らの置かれた境遇を嘲笑するような倒錯的な響きを持っていた。

 

 数十秒、あるいは数分ほどだっただろうか。

 笑い声は唐突に途絶え、エルフリーデの潤んだ瞳の奥に鈍く淀んだ影が生まれる。


「ごめんなさい、貴方には大変な役目を押しつけて………」


「またですね」


「えっ?」


「またそうなんですね、いつもいつもいつも!!勝手に決めて、一人悲劇の主人公を気取る!!!自分だけが犠牲になればいいっていう、その態度が私を馬鹿にしてるって言ってるの!!!!ファロス公爵位を辞退?愚かな妹な華を持たせるためのご英断、結構なことですね。次なる悲劇!?貴方だって気づいているでしょう、ジェベルはもうとっくに限界を迎えてることを!!!南部と北部、王権派と貴族派………争い、殺し合い、騙し合い、奪い合い、どちらが勝利し、相手からあらゆる尊厳を剥ぎ取り、ねじ伏せるまで問題が解決することなんてない!!!!」


 悲痛な叫びがこだまする。

 その声はミナトと相対した快活な王女のものでも、貴族を圧する冷徹な謀略家のものでも、袂を分かった姉を恨む妹のものでもなく、ただ一人孤独に打ち震える少女のものであった。


「わかってる、わかってるわ………だから誰かが終わらせないといけない。過去を清算しない限り、いつか道は途絶える。だから、ワタクシが新しい道を作るの。………エルフリーデ、ワタクシは今宵お父様に会い、存念をひとつ残らず申し述べます。そして、もう二度と王都に戻ることはないでしょう。貴方とこうして二人きりで会うことも二度とありません」


「………何を言っているの」


「最後にワタクシ達の全てが詰まったこの場所で貴方に会えてよかった」


「………………そうですか、ようやく理解できました。この出来の悪い茶番劇は、互いを縛る古き呪縛を断ち切るための儀式だったのですね。ならば得心がいきます。私達の道は分かれ、再び交じり合う事はない…………かしこまりました、クルブレール候がそう仰るのであれば、引き止めは致しません。次にお会いするときは、私がファロス公爵位に就く………正式に次期国王と認められた時でしょう。敗残の身で王都に戻らないご覚悟は立派ですが、せめて式典には来てくださいますか。次の王として、一貴族であるクルブレール侯をおもてなし致します。………話は終わりましたね、では失礼いたします。最早私にはここは狭すぎますから」


 シャルロッテが無言で見送るなか、エルフリーデは威儀を正し王女としてその場を後にした。

 二人が作り上げた世間から隔離された小さな世界には、少女から一人の貴族となったシャルロッテだけが取り残されていた。

面白かった、これからも読みたい、AI先生による絵が可愛いと思った方は是非、☆評価、ブックマーク、感想等をお願いいたします!!

基本毎日投稿する予定ですので、完結までお付き合い頂ければ幸いです。

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