盗み聞きの代償
アルベラは引き続き貴族達の噂話に耳を傾ける。
「そういえばルグレイス公の御姿をお見かけしませんな」
一人の貴族が今の今まで気が付かなかったと言わんばかりの物言いで、他者にその後の会話の責任を押しつけるように疑問だけを口にする。
「この度の舞踏会は一週間にも及ぶ王国の威信をかけた祭典。遠方に所領を持つ御歴々もおっつけ参りましょう」
「左様。北部では何かと物入りとの話ですしな」
「物入りとは………まさか不穏な話題ではありますまいな」
「いやいや、めでたい話です。我々が御実子に対し忠を示すように、北部貴族も自らが主人と仰ぐ御方に金銭にて忠義を表すようですぞ」
「金銭のみなら良いのですが………」
含みを持たせた言葉に、数人の貴族が首を縦に振ることで同意を示す。
「我らのように旗幟を鮮明に出来る者はまだ幸せなのかもしれませんな。南部と北部の狭間にいる同朋が気の毒でなりません」
「同朋ですか………哀れな子羊が迷い込んだと思い馬小屋を貸したら、狡猾な狼に馬を食い殺されるということもあり得ます。用心に越したことはありません。どちらがファロス公爵位継ぐか分かるまで、会合も控えたほうが良いでしょう」
貴族達の中で一際年かさの男が独り言を呟くように提案すると、東屋を白けた空気が支配する。
「あまり長く場を離れても怪しまれますし、そろそろ大広間に戻るとしましょう。くれぐれも本日の話は内密に」
集まっていた貴族達は数人ずつ目立たないように東屋から離れ、やがて周囲から人の気配が消える。
「なかなか興味深い話が聞けたわね………後は様子だけ確認して戻れば終わりだけれど………」
アルベラは何もない闇に目を凝らす。
「こそこそとレディーをつけ回すのは止めて貰えるかしら。誘われるなら情熱的にお願いしたいのだけど」
「………そちらこそ盗み聞きは関心しないね。それにしても、僕の気配を察知できるのには驚いたな。他国の人かな?せっかく東屋が空いたんだ。どうかな、少し話でもしようよ」
闇から人型の輪郭が切り抜かれ形を成していく。
人より頭一つ大きい引き締まった身体に、青みがかった長髪。月明かりにより深く刻まれた陰影は、その目鼻立ちが人並み以上に整っていることを示している。
「ジェベルでは名も名乗らず口説くのが流行ってるの?」
「流行ってるかどうかと聞かれると………うーん、流行には疎くてね、分からないや、ごめん!!あーっと………メンドイな、もういいや。ぶっちゃけると怪しい奴は片っ端から捕まえて尋問しろって言われてんだよね。客観的に見てヤバイくらい怪しいでしょ、キミ。とりあえず大人しく捕まってよ、優しくするからさ」
「優しくするなんて自慢げに語る男に魅力を感じないわ。エスコートは結構よ、一人で帰れるから」
「一人で帰ってもらっちゃ困るんだよ〜、雇い主から小言を受ける僕の立場にもなってよ。って、おーい、何それ、魔法?勝手に消えないで………げっ、行っちゃったよ」
男は音もなく消えたアルベラに目を丸くすると、先ほどまでいた場所で大きく深呼吸をし、ヒクヒクと鼻を動かす。
「リーダー、騒がしいから加勢に駆けつけたけど、まさか逃げられたんじゃないでしょうね?」
目を瞑り鼻腔に残る匂いを反芻する男の影が大きく膨らみ、褐色の肌をした小柄な少女が現れる。
「えっ?ううん、逃げられてないよ、本当だよ?」
「誤魔化すなら、もう少し演技ってやつを学んでくれませんか?はぁ、良いですよ、どうせ招待客に紛れ込んだ密偵かなにかですよね。後から私が適当に始末しときますから、リーダーはノルマ未達の言い訳しといて下さい」
「嫌な役を愛するリーダーに押しつけないでよ〜」
「愛してませんし、それがリーダーの仕事です。一番の高級取りなんですから、金で重くなった懐の分、出来損ないのオモチャみたいにぺこぺこ頭下げてください。どうせ安い謝罪なんですから」
「ひっど!!………はぁ世知辛いね〜、四罪ともあろう英雄が小間使いみたい事しちゃってさぁ」
「そういうのいいんで、早くして貰えます?さっさと済ませて大広間戻らないと、ローストビーフ無くなっちゃうんで」
リーダーと呼ばれる男は少女の態度に殊更深い嘆息をつくと、少女に一本の金の髪の毛を手渡した。
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