婚姻
「シャルロッテ、いまなんと言った。ミナト陛下と婚を結ぶと聞こえたが」
「お父様はまだお若いですわ、御自分の耳に自信を持った方が良いかと」
シャルロッテが詰問にも似た王の言葉に対し、冗談を交え返すと、口を失ったかのように静まり返っていた貴族達が一斉に騒ぎ出す。
主人たる王と王女の会話が終わらぬうちに言葉を発するのは、不敬と断じられても仕方のない浅慮な行動であったが、この場においてはむしろ口を閉ざしたままでいる方が不自然と言えるだろう。
貴族にとって婚姻は政治であり、外交である。
「戦いは他の者に任せよ。幸いなるオーストリアよ、汝は結婚せよ」というハプスブルグ家の家訓を持ち出すまでもなく、ミナトの知っている現実世界においても貴族は婚姻関係により領土を広げ、自国の統制や他国への干渉に用いてきた。
この異世界においても婚姻の重要性は些かも変わらず、第一王女であるシャルロッテの婚姻はジェベルのみならず他国にとっても重大な関心事であり、それ故に王配の選択は家父長権を有する父であり、国政の全権を担う国王たるジグムンド3世の専権事項であった。
それをシャルロッテは国内外の貴族が集まる場で、事もなげに結婚を宣言してみせたのである。
想定外の事態に貴族が小鳥のように囀り出すのは当然のことであった。
「シャルロッテ、お前はまだ成人の儀すら迎えていない子ども。たとえ願望であったとしても、叶わぬ夢を口に出すのは愚かではないか」
「つまり成人の儀を終えれば自由にしてよいと?」
ジグムンド3世は娘の問いに豊かな顎ひげを二度三度と撫でつけ、熟慮のうえ口を開く。
「ミナト陛下、礼を欠くのは承知の上でお聞かせ願いたい。陛下は我が娘との婚姻を望まれているのか」
「………ボクですか!?」
突然のことに言い淀むミナトに、再度無数の視線が突き刺さる。
他国の王を凝視する貴族達の目つきには、先程のような根拠のない優越感からくる余裕は微塵もなく、ミナトは皮膚をめくられるような強烈な不快感と、それに倍する恐怖を感じた。
(なんて答えるのが正解なんだ!?シャルロッテと結婚………国の事だけを考えればきっと最良の選択なんだと思う。それはシンギフ王国にとってだけでなく、ジェベル王国にとっても………。一つの玉座に一人の王女が座る、その為にはこれが一番なんだ。シャルロッテはそう考えたからこそ、強引ではあっても最も注目を浴びる舞踏会の場で宣言したんだ。なら、ボクが取るべき選択は………いや、本当にそれが正しいのか?自分を捨てて、国のためだけに生きることが………)
ミナトの頬が引き締まり、瞳に確かな決意が漲る。
「ミナト陛下の存念は如何に」
「ボクはシャルロッテに多くの事を教えて貰いました。今日この場で形だけでも踊れているのも、彼女の協力あってのことです。もしボクとの婚姻を望むという言葉が本心であるなら、共に道を歩みたいと気持ちはあります。ですが、ボク達はまだ若く、未熟です。いま正しいと思った事も、明日には異なる姿に見えるかもしれません。………許されるのであれば、成人の儀を迎えた後のシャルロッテ、そして陛下と話し合って結論を出したいと思います」
「誠実な答え、王として感謝する。ただの父であるならばすぐにでも娘の願いを叶えてやりたいが、王の身とは不自由なものだ。シャルロッテ、陛下の言う通りこの儀は後日改めて議する。よいな」
「はい、お父様。何があろうとワタクシの想いは変わりません。その日を楽しみに待ちますわ。ねっ、ミナト様」
シャルロッテはそう呼びかけると、振り向いたミナトの唇に自身の唇を重ねた。
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