好奇と侮蔑と
「シンギフ王国ミナト陛下御入来!!」
格式ばった甲高い声が過度に装飾された瀟洒な扉に反響すると、隔絶された左右に世界が開かれ、これまでの人生で目にしたこともないような煌びやか大広間が視界に飛び込んでくる。
ミナトはその荘厳な光景に圧倒されながらも、エルフリーデが手配した従者の先導をうけると自らを奮い立たせ、真紅の絨毯に覆われた会場へと足を踏み入れる。
瞬間突き刺さる無数の視線。
数十、数百からなる無遠慮な好奇心の鏃は、無防備なミナトの心に次々と刺さり、その歩みを遅くさせた。
冒険者あがりの若者を蔑むような微笑みが大広間を彩り、他国の王を値踏みするような粘着質な視線が華やかな空間に陰湿な重苦しさを加える。
ミナトは一挙手一投足を監視されているような感覚に襲われ、どこに身を置けば良いかもわからず助けを求めるように周囲を見回すが、シャルロッテもエランも未だ参着していないのか、会ったこともない貴族の群れが怪しげに蠢くだけで、一息つけるような場所を見つけることは出来ない。
「ミナト様、こちらに」
不意に手を引かれ、ミナトはよろめきながらその声の主と共に大広間の中央へと進む。
「まだ舞踏会は始まっておりませんが、合図があるまで待っていては暇を持て余してしまいます。本来であれば成人の儀を迎えていない私がお誘いするのは礼儀に反しているかと思いますが、一緒に踊って頂けますか?」
「エルフリーデ………ありがとう」
ミナトが事前に何度も練習した通りお辞儀をし手を取ると、エルフリーデは慣れた様子でミナトを誘導し、踊り始める。
舞踏会が始まるまでの場繋ぎとして緩やかな曲を弾いていた楽団は、唐突に踊り出した王女と他国の王に面食らいながらも、咄嗟に二人の動きに合わせワルツを奏でる。
大広間の視線はその中心で息を合わせ踊る一組の男女に注がれる。
先ほどまで侮蔑と嘲笑をもって迎えていた高級貴族も、自らの主人たるエルフリーデと踊るミナトに対し同じ態度でいることもできず、戸惑いながらも口角に穏やかな笑みを浮かべ、新たに社交界に現れた二人を見守る。
「ミナト様、舞踏会は初めてではないのですか?」
エルフリーデが淀みないミナトの足捌きに感心し、思わず耳元で囁きかける。
「ついこの前まで初心者だったんだけど、シャルロッテがボクが恥をかかないように人をよこしてくれたんだ」
「そうだったのですね………流石は姉様、抜かりありませんね」
僅かな沈黙のあと声色が変わったことに気づいたミナトは、表情を確認しようと視線を落とすが、エルフリーデはそれを振り切るように大きく動き、大広間の中心にダンスの軌跡で円を描く。
やがて踊り疲れた2人が動きを止めると、周囲の貴族から拍手が起こり、ミナトはそれに応えるように事前に教えられた形で礼をした。
「なんの騒ぎか」
重々しい声が大広間に響き渡り、拍手が鳴り止む。 貴族達の視線が声の主へと集まり、それがジェベル国王ジグムンド3世その人であることに気づくと、胸に手を当て敬意を示した。
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