勧誘
「ミナトが国王だぁ!?」
最早獣の咆哮といった方が適切なほどの轟音がギルドを駆け巡る。
先程までの喧騒は既に過去のものとなり、誰もがこのギルドの主人とミナト達の会話に聞き耳を立てている。
アルベラとの戦い、そして王都で起こった一連出来事は、豪胆をもってなるデボラであっても衝撃的であったのか、自らが夢の世界の住人でない事を確認するため、しきりに頬を叩いている。
「神託の勇者?アルベラを封印?シンギフ王国?わりぃ、頭ん中がパンクしそうだ………」
デボラは運ばれてきたエールを一息に飲み干す。
「すいません、いきなりこんな事言われても信じられないですよね」
「………いや、信じるさ。ミナトはこんなくだらねえ嘘はつかねえよ。それくらい知ってるぜ。そっちの二人がアルベラの眷属で、ミナトを操ってるんじゃねえかとも思ったけどよ、それならもっとマシな役者を用意するだろ。ミナトを騙す相手に選ぶ理由もねえしな」
「んっ、サラッとディスられた」
「だけどよぉ、王様がこんな所うろついてて良いのか。いやこの場合は『良いんで御座いますか』が正しいのか?チクショウ、情けねえが学が無いのがバレちまうな」
デボラがばつが悪そうにボリボリと頭を掻く。
「これまで通りの話し方でお願いします。敬語なんて使われたら、ボクが寂しくなっちゃうので。それに王様と言っても、今のところ国民はボク達3人だけですし、領土も決まってないんです」
「それじゃあ、尚更ほっつき歩いてる場合じゃねえだろ。ジェベルのお偉いさんと交渉やらあるんじゃねえのか」
「はい、これから大変です。想像を超えるばっかりで、ボクは何も出来なくて………ギルド長になって欲しいってお願いしに来たのも、本当はここに顔を出す理由が欲しかっただけなんです。信頼できて頼りになる人を思い浮かべた時、一番初めに思い浮かんだのがデボラさんで………。無茶な事をお願いしてる事は分かってます。でも、ボクは本気です。ボクの………ボク達の王国のために力を貸して下さい」
「わかった」
「良いんですか!?まだ役割も条件も言ってないのに」
「さっきオレに任せろって言っただろ。漢に二言はねえよ。それによ、ミナト。オレはずっとお前に引け目を感じてたんだ」
「デボラさんがボクに?」
「お前がアルベラ討伐に加わるって言い出した時、口では共に戦いたいと言っておきながら、オレは逃げた」
「逃げたなんて………」
「逃げたんだよ。ビビってたんだ、アルベラに。死にたくなかったんだよ、オレは。ギルド長としての責任がどうとか、王都からの命令がどうとか、くだらねえ言い訳ばかり並べながら、心の奥底で逃げることしか考えてなかったんだ。ミナトを止めたのだって、自分がこれ以上惨めな想いをしたくねえってだけの保身さ。我ながら情けねえ」
デボラは再び運ばれてきたエールを一気に煽ると、何かを決意したように姿勢を正す。
3メートルをゆうに超える巨体を支える粗末な椅子はミシリと軋みをあげ、その音に合わせるようにミナト達も自然と背筋を伸ばした。
「ミナト、頼みがある。オレをお前の国に使ってくれ。ミナトの頼みをオレが聞くんじゃねえ。オレの頼みをミナトに聞いて欲しいんだ。ギルド長なんて柄にもねえことをやってる間に、オレは腐っちまった。ミナトの国でなら昔の自分を取り戻せる気がする、そんな我儘で手前勝手な理由だけどよ、一生に一度の願いだ」
「はい、お願いします。まだ自分の理想の国がどんなものなのか、ボク自身も分かってないですが、デボラさんと一緒なら見つけられる気がします」
「おしっ、ありがとよ、ミナト!!久々に血が滾ってきたぜ!!!そうと決まりゃ、大宴会だ!!!国王ミナトとシンギフ王国最強の戦士デボラ誕生の祝いの席だ、けち臭えことは言わねえ。酒も肉もカラムーン中か掻き集めて、今日は徹夜で飲み明かすぜ!!!」
地鳴りのような歓声がギルドを包み、再び至る所でジョッキがぶつかる音が響く。
「んっ、勧誘成功、流石ミナト。ただ後輩、ひとつ訂正すべき。シンギフ最強の戦士は私。シンギフ最強の寡黙系ミステリアス美少女」
「あんっ?その細腕でオレを差し置いて最強だと?面白え冗談じゃねえか。せっかくの祝いの席だ、ひとつ余興といくか」
二人が同時に立ち上がり、対峙する。
余興と言いながらも、デボラには野生の獣を思わせる濃厚な殺気が漲っていた。
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異世界ファンタジーは種族によって身体的特徴が違い過ぎて、家具やら衣類やら揃えるだけで大変そうですね。




