非礼の報い
「王城での抜刀はジェベルにおいては斬首刑となりうる重罪。もし貴方に命と名誉を重んじるつもりがあるならば、剣から手を離しなさい」
「誰?」
突如現れた少女に忠告されたリオは斬首刑という言葉を投げかけられても動揺することなく、柄に手をかけたまま小首を傾げる。
「こ、これはエルフリーデ様、お見苦しい所を………」
ミナト達を取り囲む衛兵の隊長らしき男は、少女の姿を視界に捉えるや石畳に膝をつき早口で言い訳を紡ぎ出す。
エルフリーデは愚にもつかない申し開きを右手で制すと、ミナトに向き直り膝折礼により敬意を示す。ミナトが咄嗟にシャルロッテに習った礼を返すと、場の空気が和らぎ衛兵達は一斉に槍を収めた。
「どなたかは知らないけれど、御忠告痛み入るわ。だけど国王から送られた招待状を見せているにも関わらず、一国の王相手に槍を突きつけてきたのはこの衛兵達よ。貴方の言葉が正しいとすると、ジェベルでは貴人に対して刃を向けるのが礼儀というわけでもなさそうだし、こちらが返礼として剣を抜いたとしても罪に問われるような謂れはないと思うのだけど?」
皮肉をふんだんに散りばめたアルベラの問いに、エルフリーデは表情を険しくする。
「どうやらこちらに落ち度があったようですね。私はジェベル国王ジグムンド3世が娘、エルフリーデと申します。この度の非礼、恐懼してお詫び申し上げます。正式な謝罪は後日改めて致しますので、この場は私に免じ矛をお収め下さい」
「いえ、えっと、色々と行き違いがあったみたいで………リオ、もういいよ」
リオはガラス玉のような瞳でミナトの顔を覗きこむと、何かに納得したのか剣から手を離す。
「エルフリーデ様、これは誤解でして………」
「言い訳は無用です。この場にて貴方の職を解きます、自室にて沙汰を待ちなさい。その他の者は持ち場に戻り、警戒を怠らぬこと。何をしているのです、早くしなさい」
エルフリーデの命令にほんの僅かな怒気が込められると、衛兵達は雷に打たれたように硬直し、やがて役職を解かれた前隊長を抱えるように連れ出すと、深々と頭を下げ足早に立ち去った。
(この子がシャルロッテの妹………)
燃えるような長く豊かな赤髪に、透き通った緋色の瞳が白い肌がコントラストを生み、ミナトより小柄な少女に威厳と気高さを加えている。
顔立ちもシャルロッテと遜色のないほどの美しさを誇っているが、柔和で花が咲くような陽性の引力を持つ姉とは異なり、見る者に鋭利な刃物のような印象を与えている。
「シンギフ王国では女性の顔をじろじろと見つめることが礼儀とされているのでしょうか」
ミナトの思考はエルフリーデの糾弾にも似た問いにより両断される。
「す、すいません、ボクはシンギフ王国の国王ミナトと申し………あれ、どうしてボクの名を?」
「父より舞踏会に招待した方々の中に先日建国されたミナト陛下がいらっしゃると聞き、私がご案内をと考えまかりこしたのです」
「そ、そんな、王女様に案内して貰うなんて恐れ多いです!!」
「私の姉であるクルブレール候とは親しくされていると伺いましたが」
「あぁ、シャルロッテからボクの話を聞いていたんですね」
ミナトは妹であるエルフリーデが姉をクルブレール候と呼ぶことに僅かに違和感を覚えたが、それよりもよく知る共通の人物の名が出たことに安堵し、表情を崩す。
「………はい、是非とも私もミナト陛下と懇意にしたいと考え、城の案内を出来ればと愚考いたしました」
「それじゃあ、お願いします。シャルロッテから聞いているかもしれないですが、冒険者上がりで貴族的な礼儀作法をあまり知らないので、無礼な言動があったら教えてください」
「お心遣い感謝いたします。誠心誠意つとめさせて頂きますわ。レオニード、陛下は私が案内します。貴方はお連れの方々を部屋までお通しして。くれぐれも失礼のないようにね。では、参りましょう」
エルフリーデはそう言うと瞳の奥に燃え盛る炎を笑みに隠し、ミナトの手を取った。
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