金の髪飾り
「んっ、半ズボンちょっとウケる。ヤンチャな小学生感」
フローネが連れてきた従者の手伝ってもらい受け取った衣服に着替えたミナトをまじまじと見つめながら、リオが真顔でからかう。
「そうでしょうか、小学生という種族については寡聞にして存じませんが、とてもお似合いだと思います」
「服に着られてる感はあるけど、素材は抜群だものね。すぐに馴染むわ」
「おおよ、少なくともガラの悪い冒険者だったようには見えねえな」
「元からガラは悪くないつもりですが………着慣れないので動きにくいです」
皆が一様に褒めたたえるとミナトは照れくさいのか少し視線を逸らし、手足の可動域を確かめるように身体を動かす。
「シャルロッテ様が自らの身体で確かめたミナト様のサイズを忠実に再現した衣装です、慣れれば動き辛さも解消されるかと」
「なんか人聞きの悪い言い方!!………でも、ありがとうございます、ボクのためにこんな立派な物を用意頂いて」
「いえ、お気に召して頂けたなら私共としても仕立てた甲斐がありました。それでは、エスコートから」
フローネはエスコートからダンスに至るまでの一連の流れを手取り足取り教えていく。
「流石ミナト様、身のこなしがしなやかで、覚えもとても早くいらっしゃいます」
「そうですか?さっきから動きについていくのがやっとで………」
「これなら舞踏会までに十分に形になるかと。しかし、これは頂けませんね………」
フローネは自らの腰に恐る恐る置かれたミナトの手を掴み、自分自身を引き寄せるようにグッと距離を縮めると、繰り返し型を教え込む。
「すいません、女性と踊るのは初めてで………」
「慣れないダンスで気後れするのは分かります。しかし、ミナト様は私を感情のない人形か何かと勘違いされているようですが、私もとても緊張しておりますし、殿方とここまで長い時間密着する初めてですので、恥ずかしいのですよ?」
「フローネさんがですか………痛っ!!」
足の甲をヒールで思い切り踏まれたミナトは思わず叫ぶ。
「失礼いたしました。ですがミナト様、女性に対しデリカシーに欠ける発言をすると、思わぬ形で御身に災いが降りかかることもございますのでお気を付けを」
「はい、肝に銘じます………」
二人は無言で同じ動きを繰り返す。
地面に描かれた軌跡は徐々に洗練されていき、美しい模様へと変貌していく。
それはミナトの上達を示すものであり、フローネの師としての優秀さを示すものでもあった。
「ミナト様は金と赤の髪飾りの話をご存知ですか?」
「えっ?」
唐突な問いにミナトは間の抜けた反応をする。
「有名な御伽話です。昔々小さな村に金の髪飾りをした女の子と、赤い髪飾りをした女の子がいました。二人は小さい頃から友達で、いつも一緒に遊んでいましたが、赤い髪飾りの女の子には秘密がありました。彼女は友達が持つ太陽にキラキラと輝く金の髪飾りに焦がれていたのです。ある日彼女は友達が寝ている間に金の髪飾りを盗み、赤い髪飾りを代わりに置いていきました。翌日望み通り金の髪飾りを身につけた彼女は、友達がそのことを責め立てないかとても心配していましたが、友達はまるで何もなかったかのように赤い髪飾りをつけ、彼女を遊びに誘いました。二人は髪飾りの事について何も語らず、楽しく遊び続けました………これだけの話です」
「不思議で………どこか悲しい話ですね」
「そうなのかもしれません。私はこのお伽話を親から聞かされた時、幼心に髪飾りを奪われた女の子は何故盗まれたことを糾弾しないのかと、一人怒りを燃やしていました。しかし、気づいたのです。金の髪飾りの女の子もまた、赤い髪飾りに憧れていたのではないかと。ですが、二人は互いの思いを話すことなく受け入れてしまったため、永遠に相手の気持ちに気づくことはないのです」
腰に絡みつくフローネに腕が微かに震える。
「人は誰しも誰かに課せられた自分自身を演じています。期待に応えよう、他者を助けよう、誰かのために生きよう………本当の自分を心の奥底にある小さな牢獄に閉じ込め、求められた役割を演じる。そして、いつしか演じている姿を正しいものだと思い込む………思い込もうとする。人という生き物は、理想の虜囚なのかもしれません」
ミナトはフローネの言葉に何も返すことができず、ただ踊り続けた。
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