見知らぬ招待状
「それも却下。ジェベル王国の貴族からの頼みだって言っても、一国の王が他国の領土で大暴れしたって話を聞いたら貴方ならどう思う?しかも、その王ってのはジェベルから領土の割譲を受けた新興国の王よ」
「何かと理由をつけて更なる領土の割譲を企んでいるように見えるな」
デボラがため息をつく。
ミナトやデボラは冒険者だった頃の感覚で気軽に国をまたいで行動するが、現実世界でもそうであったように徒歩が主要な移動手段であるこの世界においては、辺境の村人などは生まれ育った土地から出ることなく生涯を終える者も多い。都市間や国家間を頻繁に行き来する冒険者の存在は異質であり異端であり、大多数の人間から見て怪しい存在なのだ。
そのような状況下において、本来王城で政務を執っているはずの王が、自ら他国に赴き事件解決に奔走する姿は常識とかけ離れたものであり、故にその行動には何らかの別の意図………侵略や陰謀の香りを感じるのは当然といえば当然のことであった。
「でもでもでも、ミナトが他の国で貴族狩りを止めたってのは内緒にして、シンギフ王国内で起きた事件ってことにすれば良くないか?クーちゃん頭いいぞ」
「だーめ。これだけの人数が真相を知ってるのよ。1ヶ月も経てば急拵えで作ったストーリーなんて忘れて、ポロッと喋るわよ。特に酒場には英雄が多いから」
「おいおい、まさかオレが酔って言いふらすとでも思ってんのか!?………………まっ、我ながら口がすべらねえとは言い切れねえな」
ドッと笑いが起こり、デボラは罰が悪そうに頭を掻く。
「はぁ、これだから脳まで筋肉に汚染されてる劣等種は」
「シャルロッテに伝えるのも駄目かな。色々教えて貰ってる恩があるし、大事な同盟相手だからなるべく隠し事は少なくしたいんだ」
ミナトの提案にアルベラは少し考え、やがて表情を崩した。
「特大の隠し事をしてるのに爽やかにそう言い切られると抗弁しようもないわね………わかったわ、お姫様相手なら問題ないでしょう。書状をしたためるにしろ、ミナトが直接の会いに行くにしろ、機会を見て情報を共有できるしておくわ。情報の価値を知っているお姫様相手なら、こちらが水を向ければ向こうから面白い話しをしてくれるかもしれないしね。じゃあ、今日のところはこのくらいでいいかしら。怪我人もいるわけだし、そろそろお開きにしましょう」
アルベラがそう言うと、エランは椅子から立ち上がり、ミナトの前まで歩み出て膝を折り深々と頭を下げる。貴族の礼法に詳しくないミナトであっても、その振る舞いが貴人に対するものである事は理解でき、思わず背筋を伸ばす。
「ミナト、本当に感謝する。本来一国の王に救援を直訴なんて、我ながらメチャクチャなことをしたと今更ながら冷や汗をかいてるよ。でもミナトのおかげでテオを助けることが出来た。おまけに俺まで救って貰った。どれだけ感謝してもしきれないじゃない」
「エランさん、頭を上げてください。僕がエランさんの立場になったらきっと同じことをしてたと思います」
「そう言ってもらえると心が軽くなるよ。………俺はジェベル王国の貴族だ。他国の王に忠誠を誓うわけにはいかない。だが英雄を目指す一人の男エランとしてなら、どんな協力だって厭わない。何かあったら言ってくれ。いや、言われなくてもピンチになったら駆けつけるじゃない」
「ありがとうございます、頼りにしますね」
二人が固い握手をかわす。
「さぁ、いつまでもココにいたい気持ちはあるが、そろそろ帰らないと親父殿に勘当されちゃうじゃない。俺らは屋敷に戻ろう」
「はいっ、エラン様!!」
「またいらして下さいね、いつでもお待ちしています」
「近いうちに土産話を酒の肴にまた来るよ、と言いたいところだけど、次会うのは王都での舞踏会だねえ」
エランは舞踏会という単語を口にすると、少し含みのある笑みを浮かべる。
「舞踏会?エランさんが参加されるんですか??」
「一応はね………まっ、実際は親父殿と兄貴の従者代わりに末席で縮こまってるだけさ。そういうミナトこそ、国賓じゃない。親父殿にどやされる所を見られるのは勘弁願いたいが、会えるのを楽しみにしてるよ」
「へっ!?国賓??」
ミナトは左右に居並ぶ仲間達に助けを求めるような視線を送ったが、それに応える者は誰一人いなかった。
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