生命線
「………テオ、元気そうで何よりじゃない」
「エラン様ッ!!」
テオはエランの姿を目にするや否や脇目もふらず駆け出し、飛びつくように抱きしめる。
「うっ!!………感動が身体に沁みいるねぇ」
「も、申し訳ありません、嬉しくてつい………僕のせいでエラン様がこんな大怪我を………」
「テオが無事戻ってきてくれたんだ、擦り傷みたいなものじゃない。エルムちゃんが魔法で治療してくれたおかげで、もう歩けるしね」
エランはテオに余計な心配をかけまいと、貫かれた足で何回か地面を激しく踏み鳴らし、痛みに悶絶するようにしゃがみ込む。
「バカなの!?とりあえず使えるようにはしてあげたけど、傷には変わらないんだから痛いに決まってるでしょ!!大人しくしてれば1週間もすれば治るんだから、座ってなさい」
「ダンケ、そうさせて貰うよ」
エランはテオに肩を借り、椅子に腰掛ける。
レーベとの戦い、そしてトートとの交渉を終えたミナト達は王都に戻っていた。
道中言葉を交わす者はおらず、重苦しい空気がズシリとミナトの背中のしかかっていたが、天幕では先に帰還していたデボラとエランを含めた重臣全員がミナトを戻ってくる事を待ち侘びており、和らいだ雰囲気のなか勧められるがままにグラスを手に取っていた。
「とりあえず当座は凌げたわね。貴族狩りも当面は収まるはずよ」
「六大魔公を二度も退けるとはね………勝手にライバル視しちゃってたけど、格が違うのを認めるしかないねえ」
「最後は話し合いで解決出来ましたし、たまたま運が良かっただけです」
ミナトは笑顔で答えながら、リオの顔色をチラリと窺う。
しかし、いつもと寸分違わぬその表情からは考えを読み取る事はできず、ミナトは気づかれないうちにそっと視線を戻す。
「だけど、ゾロゾロと連れ立って戦いに出向いた癖に話し合いして帰ってくるなんて情けないわね。スパスパっと首を斬って城門前に飾るくらいのこと出来なかったの?」
「圧倒的蛮族感」
「ちっ、胸も脳味噌もちっこいお子様は考えなしにメチャクチャ言いやがる。六大魔公相手に生きて帰ってきただけで大戦果だっつうの」
「まあまあ、本当に皆無事に帰って来れただけでも良かったじゃん。これで貴族狩りの脅威も無くなったわけでしょ?商人は襲われないって言っても、やっぱり怖いみたいで結構相談受けてたんだよね。ロイエ様にお願いして、ミナトが六大魔公と盟約を結んだとか派手に宣伝して貰おうよ!!もちろん、使者は私が行くからね!!」
レティは尻尾を激しく動かしながら早口でまくしたてる。
その言葉通り貴族狩りについては噂レベルではあるものの商人達の間にも広まりつつあり、彼らと話す機会の多いレティの元には街道の安全性について確認するていで、貴族狩りの情報を引き出そうとする者も出始めていた。
「おいおい、実際被害にあってるジェベルの貴族間でもようやく噂になり始めた段階だっていうのに、商人って奴は本当に噂が早いじゃない」
「商人は情報が命だからね。ロイエ様ほどじゃなくても、噂には敏感だよ。ねっ、いいでしょ、私が使者になっても」
「却下よ。残念ながらこの事は口外無用。箝口令を敷かせて貰うわ」
「なんで!?」
「そうだぜ、なんだって黙ってなけりゃいけねえんだ。往来の安全を確保するのが国の務めなら、それを喧伝するのも大事な仕事だろうがよ」
デボラの言は最もであった。
事実、ゼダーン都市長ロイエのもとブレニムの民やベスティアとの協調関係を視覚的に示すことで、フォルティノ街道の安全性をアピールすることに成功したことは記憶に新しい。
しかし、同時に噂は生き物であり、より刺激的で怪しげな話題ほど好まれるという傾向は洋の東西を問わない。
貴族狩りという得体のしれない存在が対象とするのが商人含む平民でないこともあり、高慢な貴族をターゲットにした義賊的な意味合いを持ちかねない危うさもあることから、早めに噂の芽を摘む必要がある事は誰しもが感じる所であった。
「通常の案件ならね。でも今回は六大魔公が相手、しかも鮮血公の時と違って、物証は何もないわ。つまり飲み屋で無数に騙られる英雄譚と何も変わらないってわけ」
「なるほど歯医者には英雄はいねえって言うからな。ミナトが活躍したってのは周りから見たら眉唾かもな。だけどよ街道の安全確保の話だけでも広めておかねえと、交易にも影響が出るだろ」
交易の中継点として得る外貨は言うまでもなくシンギフ王国の生命線であり、また接待という名目で堂々と昼から酒を飲むことが出来るデボラの生命線という事もあり、アルベラ相手にも一歩も引くことなく立ち向かった。
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