混ざり者
「んっ、ミナト、生きてる?」
リオはうつろな瞳で椅子にもたれかかるミナトに水を手渡し、肩をゆする。
「うん、なんとか」
「わりぃ、わりぃ、つい力が入っちまった。しっかし、アルベラと戦いに行ったかと思えば、目ん玉ひんむくような美少女二人をお持ち帰りたぁ、やるじゃねえか、ミナト!!あれか、戦い行くってのは方便で、女漁りが本命かぁ!?」
ギルド内の喧騒を掻き消すような大声とともに背をバンバンと叩かれ、その度にミナトはゴホゴホと咳き込みながら水を口にする。
「違いますよ。彼女達とは戦場で会ったんです」
「おいおい、血生臭いナンパもあったもんだな。それで、3人とも生きて帰ったって事は倒したのか、六大魔公アルベラを。噂じゃ『翠の音』が救援に向かったって話だが」
「いいえ、『翠の音』の皆さんは………あの戦いに参加した人達は、ボクら3人を除いて全員………」
「………そうか」
「ミナト、この人だれ?」
沈み込む二人を気にすることなく、リオが無遠慮に問いかける。
「あっ、勝手に話し始めちゃってゴメン。デボラさんはカラムーンの冒険者ギルド長で、凄く有名な冒険者だったんだ。滅茶苦茶強いんだよ!!オリハルコン級だったんだけど、実力は竜鱗級だって誰もが口を揃えるくらいなんだ!!」
「おう、よろしくな!!で、お嬢ちゃん達はなんだい、ミナトのコレか?」
デボラは常人の倍はあろうかという太い小指をピンと立て豪快に笑う。
「私はリオ。ミナトの夢を叶えるために一緒にいる」
「ミナトの夢?」
「あっ、いや、その話はまた今度しますね。まだ自己紹介も途中だし、ねっ」
ミナトは構わず話し出そうとするリオの口を掌で塞ぎ、アルベラに視線を送る。
「ワタシはアルベラ、リオと同じくミナトに惚れ込んでついていく事にしたの」
「………待て、今なんて言った。アルベラだぁ!?おいっ、そのジョークは笑えねえな」
瞬間、ギルド内に凄まじい殺気が満ち、水を打ったように静まり返る。
「笑えないのはこっちの方よ。生まれ故郷に、子に不吉な名前を付けると病も寄り付かないっていう馬鹿みたいな風習があったせいで、一歩村を出たら名乗る度にこの扱いよ」
アルベラが悪びれもせず嘘を並べ立てると、今にも殴りかからんばかりの形相で睨みつけていたデボラの表情から力が抜けていく。
「なんだあ、本名なのか?てっきりタチの悪い冗談かと思ったぜ。人の故郷にケチつけるのもなんだが、傍迷惑な風習だな」
「そうね、本当に迷惑だわ。皆が皆あなたと同じ反応するものだから、ムカついてアルベラ討伐部隊に加わったわけ。まっ、今さら自分の名を変えるつもりもないし、六大魔公の方のアルベラの名が霞むほどワタシが有名になればいいのよ。だから、一緒にいて一番名を挙げられそうで、一番可愛いミナトを選んだの」
「なるほど、一番可愛いは同意だな」
「同じく」
「名を挙げられるに同意してくださいよ!!」
ミナトがため息をつくと、近くで話を聞いていた冒険者達から笑いが起こる。
「それにしても、デボラはビッグ。小さいころ牛乳たくさん飲んだ?」
「飲んださ飲んだ、毎日牛ごといったね。あとついでと言っちゃなんだが、オレは巨人の血が混じってる、いわゆる『混ざり者』だからな」
「混ざり者?」
リオが何を言っているのか分からないという様子で、デボラを見つめる。
「なんだ、お前さんの故郷じゃ言わねえのか?他種族間で生まれたやつの事を揶揄する、子供じみた蔑称だよ」
「差別、良くない」
「アハハッ、ごもっともだ!!誰もが嬢ちゃんみたいな奴なら良いんだけどな、色々やられるんだよ、混血って奴は。最近じゃ街に出ると、犯罪者みてえな面してるココのバカどもすら、石を投げられることもあるくらいだぜ。まあそういう奴は片っ端からぶん殴ってるから、このギルドにゃそんな輩は一人もいねえけどな!!」
「んっ、ビックリするほど脳筋」
「それは否定できねえな。とにかく、こうしてミナトが無事帰ってきたんだ。今日はオレの奢りだ、お前らも好きなだけ飲め!!」
デボラが宣言にギルド内の飲んだくれが一斉に歓喜の雄たけびをあげ、あちこちでジョッキをぶつけ合う音が響く。
「ありがとうございます、デボラさん。奢って貰っておいて恐縮なんですが、ひとつお願いがあるんですが………」
「ミナトからおねだりたぁ、珍しいな。なんでもいいな」
「良かった、それなら遠慮なく。えっと、ボクの王国でギルド長をやってくれませんか?」
「なんだ、そんな事か、オレに任せな…………………………はあ!?今なんて言った???」
「はい、シンギフ王国の建国を手伝って欲しいんです」
動揺を隠せないデボラに向かい、ミナトは屈託のない笑顔で答えた。
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実際に容姿で分かるレベルで異なる種族が同じ場所で暮らしてたら差別ヤバそうですよね




