命乞い
リオが鞘に納められた長剣をレーベの首筋に置く。
金属製の鞘の冷んやりとした感触がレーベの思考をより一層混乱させ、ただ運命の裁定者たるリオの顔を下から見上げた。
「聞きたい事はあるけど、それは貴方じゃなくても良い。道端に落ちてる石ころだったとしても、ミナトが転ぶ可能性があるなら潰して砂にする。これで終わり」
少女の姿を借りた死が、悪魔の命を刈り取る。
肉が裂け、骨を断ち、存在を消し去る………その刹那、跳ね飛ばされる寸前の頭部からレーベと異なる声色が響く。
「待って貰える。貴方には話すことが無くても、アタシにはあるの」
瞳に生気が戻り、口の端に笑みが浮かぶ。
「兄さん、起きていたのかい!?」
「ほんの数分前からね。ここはアタシに任せて」
「………頼むよ。いまは一人で考え事をしたい気分なんだ」
一つの身体が織りなす二つの会話に、リオの手が止まる。
「初めまして、アタシはトート。死にかけの状態じゃ格好がつかないけど、審美公『双頭のトート』って二つ名で六大魔公をやっているのよ、そこにいるアルベラちゃんと一緒にね。それはそうと弟が迷惑をかけたみたい、ごめんなさい。でもアタシは貴方達と敵対するつもりはないの」
「命乞い?」
「正解。だけど本心。ちょっかいをかけた相手が偶然貴方達のお仲間だった事は謝るわ。ただこれはアタシ達にとって狩りも同じ。生きるための必要最小限の犠牲ってやつ。貴方達が牛を食べるように、アタシ達は人間を弄ぶ。相容れない存在ではあるけど、人と牛が敵対関係にないように、アタシ達も敵と味方以外の関係があると思うの。今後お仲間に一切手を出さないことを約束するわ。貴方にとっても、敵でない相手の為に力を使うのは本意ではないでしょ?それにアタシはミナトを襲ってはいないわ。貴方にとって一番重要なことでしょ?」
トートの弁舌は命乞いにしては堂々としすぎており、交渉の色彩すら帯びていた。
リオは首筋に当てている剣を引く。
「命乞いを間に受けて許す気?トートだけならともかく、レーベも見逃すことになるのよ。後悔すると思うけど」
「ミナトの夢を邪魔しない?」
「しないわ、アタシの命に代えても。ちなみに参考までに夢の内容を教えて欲しいんだけど」
「んっ、ミナトの夢は『目指せ酒池肉林!!やるぜボク絶倫!!全世界全種族全制覇、どすけべハーレム王国の建国だウェイ!!』。世界中のありとあらゆる種族から選りすぐりの美女を集めて巨大な浴場に並べ、溢れるエロスのなかでお触りあり煩悩バタフライをするような、完璧で究極な『どすけべハーレム建国』。………ミナトらしい壮大な夢、漢のロマン」
「へっ!?待って待って待って、変な声出ちゃったじゃない。それって本気で言ってるの??」
六大魔公の仮面を取り払ったトートの率直な問いにリオは力強く頷く。
「ふふっ…………あーはははははっ!!!いいわね、男の子って感じの夢だわ。そんな面白い世界ならアタシも協力したくなるかも。でもアタシ達にはアタシ達で為すべきことがあるの。道は違えど、またいつか交わるわ。そういうものだから。じゃあ、今日の所はこれでお開きでいいかしら。そうだ、あの色男にこれを渡しておいて。カッコいいところを見せて貰ったお礼だってね」
トートは紫の液体の入った飾り気のない小瓶を手渡す。
「リーベさん………いえトートさん。もう一つだけ約束してください。貴族狩りはもう止めると」
「………分かったわ。偽名を使って悪かったわね。また会いましょう」
トートはミナトに投げキッスをすると、その肉体を黒い霧へと変え風の中に溶けていった。
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