骸の王
「骸の王………ワタシにご執心なのは知ってたけど、ここまで本気になられるとちょっとだけ心を動かされるかも」
「良かった、特別感を演出するために普段はあまり使わないようにしていたんだ。喜んで貰えて光栄だよ」
骸の王………六大魔公『双頭のトート』の代名詞でもある自立式のからくり人形の名。
その力は古龍をも容易く葬り、千を超える魔法を自在に操るという機会人形であり、主によりこの世界に呼び出された瞬間から、世界を自らの住む異世界と同じ虚無へと変えるべく、永遠の時のなかひたすら生者を死へと導くよう作られた、骸の上に立つ者。
アルベラが『冥王の大鎌』を有するように、六大魔公はそれぞれがこの世界の理から外れる『神器』を持っている。
悪魔の身でありながら神の名を冠する武器を持つという滑稽。
それは六大魔公ですら、神という全てを超える存在に作られたものに過ぎないという事実を如実に表しており、彼らの物語が彼ら自身によって紡がれた物ではないことの証左でもあった。
「でも、やっぱりダメね。兄からの借り物で女を口説こうとするなんて、乳離れできない赤子も同じだもの」
「それは残念だ。でも僕だって結構『骸の王』の扱いは上手いんだよ。評価は借り物の力を見てからにしてくれないかな」
レーベが音もなく右腕を前に突き出すと、背後に立っていた骸の王の姿が消える。
「………ッ!!!!!!」
刹那、アルベラは腹部に激しい衝撃を感じ、反射的に転移魔法で距離を取る。
「馬鹿でかい図体の割に速いのね」
転移した先で数秒前まで自らがいた場所を確認すると、そこには骸の王が悠然と立っており、四本ある手の内の一つには真新しい血がこびりついた大刀が握られている。
「『深紅操術』」
大刀を彩る鮮血が蛇となり、骸の王の身体を覆う。
血より生み出された蛇は操り人形を自在に動かす糸の如く骸の王の腕を動かし、その大刀をもって首を跳ね飛ばさんとする。
「ふふっ、機械人形とは言っても、行動は自然と傀儡師に似るものだね。しかし、六大魔公相手に窮地を演出するのは礼を失する。その程度の魔法、寝起きに背伸びをするよりよほど容易に跳ね除けられるだろう?君に求められているのは絶え間のない攻勢ってやつだ、期待には応えないとね」
レーベがパンと手を叩くと、骸の王は即座に深紅操術を解き、アルベラに向かい突進する。
「期待なんかしてないわよッ!!多重詠唱『鮮血投槍』」
真っすぐに走り寄る骸の王を数十の槍が迎え撃つ。
空の肉体を槍が貫き、僅かな骨組みが血で染まっていく。
しかし、骸の王の勢いは衰えることなく、振り下ろされた大刀がアルベラの右腕を切り落とす。
細く白く長い腕が宙を舞い、血が雨のように降り注ぐ。
「クッ!!『血塊破槌』!!」
空中に浮遊する血の塊が鎚となり、頭上から骸の王を叩き潰す。
アルベラはその一瞬の隙をつき、自らの腕を取り傷口に押しつけると、再度詠唱を始める。
傷口から滴る血が大地を潤す寸前、次元の切れ目から現れ漆黒の闇がその血を貪るように形を為し、やがて一つの武器を象った。
「冥王の大鎌………ようやく本気になってくれたようだね」
いまだ治りきっていない傷口から零れ落ちる血が冥王の大鎌の刃をつたい、その刀身を怪しく輝かせた。
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