神炎
「あら、もう終わり?」
アルベラは引き裂かれ朱に染まった肌を指先で拭いながら、相手の劣情を誘うように問う。
「勘弁してくれよ、君にまであの男の虚勢がうつったのかい」
「虚勢とは失礼ね、ワタシの能力を忘れたわけ?」
身体中の至る所から溢れる血液が霧となって夜の冷たい空気に溶け込んでいく。
「どうせやるなら万全の状態で楽しみたいという僕なりの心遣いさ………それにしても、本当に君は人如きに飼われているんだね。その人間を見捨てれば、君一人なら難なく避けられただろう?」
レーベの言葉通り、傷を負ったのはアルベラのみであり、狭まった防壁を集中させ守ったテオは未だ夢の世界の住人のままであった。
「ワタシは可愛い物には目がないの。またこの世界に来たんだもの、せっかく見つけたお気に入りをみすみす失うわけにはいかないわ」
「それが最後の言葉とは、仮にも六大魔公としてあまりに締まらないね」
レーベが殊更に『六大魔公』というフレーズを強調するように言うと、アルベラは右手で口元を抑え笑いを堪える。
「何かおかしな事でも言ってしまったかな」
「ごめんなさい、ワタシは貴方と違って六大魔公の呼び名に執着はないの。兄のオマケだって事にコンプレックスがあるようだし、欲しければ二つ名を貸してあげてもいいわよ?」
「ハハハハハッ、それで動揺を誘ってるつもりなら可愛いものだね。お喋りばかりでは退屈だろう?君はその子を守らないといけないようだし、僕が遊びに付き合ってあげるよ。六大魔公の名にかけて、せいぜい使命を果たすべく頑張ってくれ」
レーベは言い終えると首に刺さった大振りの鋲を抜きレイピアとし、大地を蹴り間合いを詰める。
「許可なくレディーに近づかないで貰えるかしら。鋼棘縛鎖」
剣先がアルベラを捉えるよりも早く、金の髪は鋼の茨となりレーベの腕を絡めとる。
「手入れが行き届いていないんじゃないかな?簡単に千切れそうだ」
「相手の欠点ばかりあげつらうようじゃモテないわよ」
レーベは事もなげに両の手足を拘束する金の茨を純粋な力のみで引きちぎるが、拘束を解いた瞬間それに倍する量の茨が足を絡めとり、猛り狂う大蛇の如くうねり、大岩に叩きつける。
「火弁獄徒」
砕けた岩石に挟まれ身動きが取れずにいるレーベを極彩色の不気味な花弁が包み込むと、花びらは外側から真っ赤に溶けた溶岩へと変容し、捉えた獲物を焼いていく。
「グアアアアアアッ!!!!………………とでも叫んでおくのが六大魔公の名を冠する君への最低限の礼儀かな?」
「礼儀を気にするなら、ここで死んでおくのがセオリーってやつよ。神炎」
アルベラが両腕を前に突き出し、身体を覆う血液を薪として溶岩にくべると、ドロドロとした真っ赤な熱の塊は真白な神の炎に包まれ、火を纏う円柱となり空を焦がす。
「これで終わりだと嬉しいんだけど」
「………冗談言わないでくれ、確かにそれなりに痛みはあるが、こんな呆気ないラストシーン観客が許すはずがないだろ?しかし、神炎まで出すとはね。仮にも悪魔である僕達が神の名を戴く魔法を使うのは些か問題があるんじゃないかな。それほどまでに僕が怖いかい」
「ええ、その認識で結構よ。相手の話を聞かない男に付きまとわれることほど、厄介な事もないもの」
純白の炎に肉体を焼かれながらレーベはニタリとした粘性の笑みを浮かべ、わざとゆったりとアルベラに向かい歩み出した。
面白かった、これからも読みたい、AI先生による絵が可愛いと思った方は是非、☆評価、ブックマーク、感想等をお願いいたします!!
基本毎日投稿する予定ですので、完結までお付き合い頂ければ幸いです。




