瞳に映るもの
悪魔の瞳を通し、鉄格子越しに人影が蠢く様子が映る。
手足には枷が嵌められ、意識を失っているようにぐったりとした様子で真下を向く人影は、悪魔の存在にも気づいていないのか身じろぎ一つしない。
「感動の御対面というやつだね。どうだい、気を失っているようだし声をかけてあげては。このままでは君に見捨てられたと思い込んだまま死に別れることとなってしまうからね、僕なりの気遣いさ」
「それはまた随分とサービスがいいねえ。しかし、あんなに気持ちよさそうに寝てるところを邪魔しちゃ悪いじゃない。積もる話は帰ってからするさ、あんたから逃げきった後にね」
「はははっ、段々とその虚勢も心地よくなってきたよ。どれだけ強がったところで、君の命も従者の命も僕が握っているという事実はなんら揺らがないからね。心に被せた仮面を剥ぐ瞬間、全てを失った時にこそ光り輝く想い、それこそが僕の求める『真実の美』なんだ。君達の絆はどんな美しさを見せてくれるかな?じゃあ、始めようとしようか。手始めに、その子どもを起こして片耳を引きちぎれ。そして、穴だけになった耳にこう言うんだ『主人は命欲しさにお前を売ったぞ』とね」
「………オオセ ノ ママニ」
硬質な声が湿った地下牢に響き渡り、地下牢の扉が悲鳴のような異音を発しながら開いていく。
「ここまで大きな音が鳴ってもまだ目覚めないとは人間という奴は実に脆弱だ………まさか死んでいないだろね?」
「イキテ オリマス」
「それは良かった………やれ」
悪魔が髪をかき上げ耳を掴む。
「フフッ」
小さな笑い声。
「今のはなんだい?………おいっ、その子どもの顔を見せろ!!」
レーベの叫び声が宙に浮かぶ地下牢に満ち、幾重にも反響する。
すると、突如映像の視点が高くなり、視界には頭頂部と細かく震える子どもの身体だけが収まった。
「何をしている!?悪ふざけは止めろ!!」
「悪い悪い、成長期なんだよ、許してくれ」
悪魔然とした重苦しく硬い口調が一瞬にして氷解し、酒場で仲間内と話すような陽性の砕けた口調へと変容する。
「貴様は誰だ!!」
「おうおう、誰だと問われりゃ答えてやるのが世の情けって相場が決まってるが、俺様は賭け金踏み倒そうとするようなセコイ奴が大嫌いでね。テメエに名乗るような名は持ち合わせてはねえんだわ、『ポンコツのレーベ』さんよぉ」
悪魔に成り代わった何者かがそう啖呵を切ると、グシャリと悪魔の頭部が潰れる音が聞こえ、瞳を通して映し出されていた地下牢の映像が途切れる。
「クソッ!!どういうカラクリだい、心を読んだ時にはこんな計画は見えなかった!!」
「カラクリも何も最初から俺は何も仕組んじゃいないからねえ、神様気取りの間抜けが見抜けなかったとしても不思議じゃないさ。ただ俺は信じてたのさ、友って奴をね。『六大魔公とは戦えない』、こんな回りくどい言い方、伝わらないわけはないじゃない」
エランは怒りに身を震わせるレーベに対し、挑発的な笑みを投げかける。
「少しばかり僕を出し抜いたからと言って、増長しすぎなんじゃないかい?あの屋敷は僕が作り出した結界も同じだ。嚙み砕かれ胃の中に流し込まれた魚が、小骨を喉に刺して一矢報いてやったと自慢していたら鼻で笑ってしまうだろう?君達がやっていることはつまりはそういうことさ。君を殺してからゆっくりと屋敷に閉じ込めた羽虫共を始末すればいい」
レーベはエランの反応を待つように上から下までねっとりと視線を這わせる。
「クククククッ…………アハハハハハハハハッ!!!!!」
「なんだい、とうとう狂ったのかな?」
「違うね、あんたと俺が似ていると思ったのさ」
「支配する者と支配される者、命を奪う者と命を奪われる者………どこが似ているのかな」
「賢い兄と違っておつむが弱いところさ!!閉じ込めた!?蜘蛛の巣の張った脳味噌で屋敷の中を確かめてみるんだねえ!!」
レーベが背後の屋敷を振り返る。
刹那、エランの足元に転がっていた魔槍がひとりでに浮き上がり、背から脳まで杭を打つように貫く。
「このゴミカスが、くだらない小細工をッ!!!!!!!!!!」
自らの頭蓋骨を串刺しにする槍を掴んだレーベの視界が闇に覆われる。
「黒影投射陣『顎』!!」
暗闇のなかで槍の穂先を通して肉体に刻み込まれた声、それは閉じ込めていたはずのテオの声だった。
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