巨人
交易都市カラムーン。
カロより30キロほど南にあるこの大都市は、ジェベル王国と国境沿いに点在する亜人の諸部族、そしてゴドルフィン帝国を結ぶ陸上交通の要として古くから栄え、それ故に亜人への差別の激しい王国内にあって、多種多様な種族が混在する亜人都市としての顔も有している。
そんなカラムーンの大路をミナト達はある建物に向かい歩いていた。
「おうっ、ミナト、調子はどうだい」
「はいっ、上々です」
ミナトはすれ違いざまに声をかける知り合いに、慣れた様子で返す。
人々は皆なにかにせき立てられるかのように忙しく行き交っているが、その表情には日々の生活に追い詰められた者の暗さはなく、生を楽しむ者の明るさがある。
「ミナト意外と顔が広い」
「ずっとここを拠点にしてるからね」
「それにしても、六大魔公が今にも攻めてくるって言うのに随分のんびりしてるのね。王都での出来事がもう広まってるのかしら」
アルベラが少し不満そうに小首を傾げる。
「都市長に魔法で一報は入ってると思うけど、街の人は何も知らないと思うよ。もし知ってたとしても、あんまり変わらないと思うけどね。ここは交易都市だから危険になったら故郷まで逃げればいいって考えてる人も多いし、なにより元から楽観的な人が多い場所だから」
ミナトはアルベラの疑問に照れくさそうに答える。
「でも、心配だなぁ。本当に正体バレないの?」
「問題ないわ。魔法で隠してるだけならともかく、いまは角が無いんだもの。髪を結って覆えば根本も見えないし、保険として幻術もかけてあるわ。ワタシの幻術を見破れる人間なんていないでしょ」
ヒソヒソと小声で話しかけるミナトに対し、アルベラは堂々と返答する。
街の中央にある広場を抜け数分ほど進むと、煉瓦造りの見張り台が脇にそびえ立つ古風な建物に行き着く。
「ここが噂の冒険者ギルド?予想以上に小汚い」
「確かにお世辞にも綺麗な場所とは言えないかな。でも、慣れると味が合って良い所だよ」
扉を開け中に入ると、壁や床にまで染み込んでいそうな強烈なアルコール臭が鼻腔に広がり、騒々しいという言葉では言い表せない程の喧騒が耳をつんざく。
天井は高く、床は分厚く、全ての調度品が重厚で、何より大ぶりであり、酩酊した荒くれ者が大暴れしようがビクともしないだろう頑強さを誇っている。
ギルドに併設した、というよりかはこちらが本体と言わんばかりに派手に装飾され目立っている酒場では、地につきそうなほど長い髭のドワーフが樽と見まごうほどの大ジョッキでエールを一気に煽り、顔に大きな傷のあるハーフエルフが叫ぶように武勇伝を語っている。
バードマンの吟遊詩人は酔って狂った音程を気にすることなく美声と怒声を交互に発し、柄の悪い猫型の亜人がひっきりなしに野次を飛ばす。
冒険者ギルドであるという前提がなければ、およそまともな人間は近づくことがないだろう、異様な雰囲気だ。
「んっ、世紀末」
「ひっどい客層ね。冒険者ギルドじゃなくて牢獄の間違いじゃない?」
「ははっ、冒険者ギルドはどこもこんな感じだよ。まぁ、カラムーンはちょっとだけ特別だけど………。あのさ、今から会うのはボクがとってもお世話になってる人なんだけど、さっき言った通りちょっと感情表現が大げさというか、エネルギッシュだから驚かないでね」
半ば喧嘩かと思うほどの騒がしさに包まれながら3人が受付まで歩を進めると、奥に不機嫌そうに座っていた人並み外れた巨体を持つ赤髪の女性が、ミナトの姿を見るや否や椅子を蹴り飛ばすように立ち上がり駆け寄ってきた。
「ミナト………ミナトか!?おいっ、お前生きてたのかッ!!馬鹿野郎ッ、勝手に飛び出しやがって!!死んだかと思ってたぜッ!!」
女性はそう言うと、片手でグイとミナトを掴み上げ、そのままの勢いで思いっきり抱きしめた。ミナトの太腿ほどあろうかという腕が万力のように胴体を締め上げ、ミシリと骨が軋む音が響く。
「デ、デボラさんっ、苦しいですっ!!胸が、胸……………」
「んっ、命の危機」
薄れていく意識の中でミナトが最後に見たものは、どこまでも無表情なリオの横顔だった。
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基本毎日投稿する予定ですので、完結までお付き合い頂ければ幸いです。
もし私が転生したとしても、陽キャと輩の巣窟であろう冒険者ギルドには絶対に入れないと思います(確信)




