槍の行方
既に首元まで蔦に覆われ、身動き一つ取れないほどに幾重にも拘束された肉体に、槍の穂先がグサリという鈍い音と共に突き刺さる。
………いや、突き刺さったように見えた。
次の瞬間、濃緑の蔦がハラリと千切れ落ち、右手の人差し指と中指に挟まれた銀の穂先が姿を現す。
「惜しかったわね、あと一呼吸分アタシ達の反応が遅れていたら、この身体は槍で串刺しになっていたのに」
「そうだね、わざわざ兄さんが君の攻撃でも傷つくことが出来るよう、防御を解いていたんだけど………工夫が足らなかったね。もっと面白いものを見せてくれると期待していたんだけどな」
レーベは失望と苛立ちを込めた口調で吐き捨てるように呟く。その圧力から逃れるように、エランはジリジリと後退し、体勢を整える。
「これで終わりだとすると少しだけ物足りないかも………他に何かある??」
「あるさ。忘れたのかい、魔槍ヌゥンヌニゥルはどんな状況でも必ず主人のもとに戻ってくると。そう、たとえどれだけ強大な力により縛られてようと、必ずね」
エランの言葉をうけ、トートは不思議そうに手にした槍を見つめる。
「力比べをしようってこと?この槍からはアタシ達の腕力から逃れられるような魔力を感じないんだけど………それだけ煽られると試したくなっちゃうわね」
「兄さん、悪い癖だよ。彼の言動は全てが過剰なまでに演技がかっている。まるで、こちらの興味を引き続け、時間稼ぎをすることが目的であるかのようにね」
「あらっ、それも一興でしょ。………レーベ、まさか遠隔視であの子の様子を盗み見てたりしないでしょうね」
「してないよ、演出は大事さ。結末を知った上で見る物語ほど退屈な物はないからね」
「ふふっ、それでこそアタシの弟だわ。彼の考える筋書きってやつに乗ってあげましょう。じゃあ、力比べと洒落こもうかしら、楽しませて頂戴」
トートは槍を持つ右手を前に突き出すと、エランに穂先を向け、万力の如き力で柄を握りしめる。柄が握力に抗しきれずに少しずつ形を変え、金属が擦れ合う音が悲鳴のように周囲に響き渡った。
エランは自分の半身を呼び寄せるかの如く、真っすぐ前に右手を突き出し、カッと目を見開いた。
「………………槍よ、来いっ!!」
…
………
……………
兄弟は右手に握られた槍をマジマジと見つめる。
槍はエランの声に反応することなく、動き出す気配すら感じさせない。
「ハハハハハッ!!!騙されたみたいじゃない!!!!」
兄弟の神経を逆撫でするかのように大袈裟な抑揚をつけたエランの馬鹿笑いが耳をつんざく。
「不快だね」
「やっぱり単なる時間稼ぎだったわけね。もうネタ切れみたい。結末は不出来だったけれど、ここまで楽しませてくれたお礼に、楽に殺してあげましょう」
トートは顔に打ち込まれた鋲に指をかけると、それを引き抜く。
すると小指ほどの大きさでしかなかった鋲は、瞬時にして一本のレイピアとなり、その先端がエランに向けられる。
「なるほど、これで俺の人生も終わりなわけだねえ。それなら最後くらいカッコつけさせてくれ。そうだな、伝説の武器を呼ぶのに『槍よ、来い』では雰囲気が出なかったじゃない。本来ならこう言うべきだったんだろうね『魔槍ヌンヌニゥルよ、我が求めに従い、閃光となりてこの手に来たれ!!』とね」
エランは再び右手を突き出し、槍に呼びかける。
「くだらない、さっさと終わりに………………えっ?」
グサリ
肉を穿つ音が体内から響き、レーベは訳も分からず自らの胸に視線を落とす。
真っ黒な瞳が捉える視線の先には、兄弟の肉体を貫く一本の白銀の槍があった。
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