偽りの揺らめき
「ミナト、ミナト、ミナト、本当にこれで良かったのかぁ?クーちゃんは人間のことイマイチ良く分からないけど、顔色が悪い気がするぞぉ」
クームフェルドが心配そうにミナトの顔を覗きこむ。
緑色の肌を柔らかなランタンの光が照らし、炎の揺らめきが紅茶に混ぜたミルクのように透明な身体の輪郭を曖昧にする。
「ありがとう、気を遣ってくれて。でも、これは誰かに指図されたわけじゃなくて、王としてボクが決めたことなんだ。六大魔公『双頭のトート』とは戦わない。だから、安心して」
天幕内に張り詰めていた空気が弛緩する。
「そうだ、アルシェ。せっかく皆集まってくれたし、夜は美味しい物でも食べたいな。酒場の方にお願いして、何か持ってきて貰おうよ」
「そういう事でしたらお任せください。私が腕によりをかけてお作りします」
「決まりだね。食事までまだ少し時間がかかるから、1時間後にここに集まるって事でいいかな」
無理に明るく振る舞うミナトに、一同は料理が楽しみなどと軽口を叩くことで賛意を示す。
「そうだ、クームフェルド、排水施設のスライムについて見て貰いたい物があったんだ。食事までの間、ちょっと付き合ってくれるかな。都市整備とか人手の話にも関わってくるから、デボラさんとアルベラもいいかな」
「了解だぞ」
「あいよ、相変わらず仕事熱心だな、付き合うぜ」
「食事前に下水を見に行くのは気が引けるけど、ミナトの誘いじゃ断れないわね。すぐに行きましょう」
ミナトは3人を引き連れ天幕を後にした。
1時間ほど経つと、それぞれの天幕に戻っていた仲間達がめいめいに再集合し、テーブルを囲む。
政務用に広く作られた組み立て式のテーブルの周りには粗末な椅子が並び、唯一ミナトの椅子だけには王の威厳を演出するためか申し訳程度の装飾が施されている。
ミナトは疲れているのか、おぼつかない足取りでヨタヨタと椅子の横まで歩くと、暑さで溶けたクリームのように椅子にどっかりと腰を下ろす。
「ミナトが疲弊しすぎな件。まさか四人で青空の下お楽しみ的な展開?」
ミナトはリオの投げかけに曖昧な笑みで返すと、どこか落ち着かない様子でキョロキョロと辺りを見回す。
すると助けを求めるような視線に気づいたのか、料理を運んでいるアルシェがコップに入った温かなスープを差しだす。
「外は冷えます、先にこちらを飲んで一息ついてください。ところでアルベラ様とデボラ様、それにクームフェルド様がまだいらっしゃってないようですが、まだお仕事をされているんですか?………………ミナト様、お三方はどちらに??」
アルシェの問いかけに、ミナトは額から汗を流す。
汗はほのかに緑色に輝き、肌に際限なく浮かんでは、すぐに溶け込むように皮膚に吸収されていく。
「ミナト様、どうされたんですか、心なしか顔色が悪いような………それに服が僅かに濡れています正………………まさか!?」
アルシェの叫ぶと、ミナトはビクンと背筋を伸ばし、肌をプルプルと震えさせる。
「クームフェルド様と………なさったのですか??」
「んっ!?スライムで初体験とか、ファーストテイクから凄いとこ選んだ。流石は異種姦王」
「まさかまさかまさか、クーちゃんそんな事しないぞっ!!」
ミナトが鼻にかかったような甘く柔らかな声で否定すると、アルシェの表情がみるみるうちに変わる。
「そういう事ですか、悪ふざけは止めてください。わざわざ着替えてまで悪戯なんて、なんの目的で………もう結構ですので、早くミナト様を呼んできて頂けますか」
「ん??ミナトにミナトを呼んでくるよう真顔で頼む構図が怖い件」
「リオ様、お気づきになられていないようですのでお教えしますが、こちらはクームフェルド様がミナト様に擬態されているだけです」
「ジョークが下手で草。どっからどうみてもミナト」
「しばしば口にされる『草』とはどういう意味なんですか?だいたい注意深く見ていればすぐ分かるかと思いますが。人は緑色の汗をかきませんし、それを吸収も出来ません。そもそも、先ほどの声がまるっきりクームフェルド様のものだったではないですか」
リオの瞳から光が消え、幽鬼のような生気のない表情で首を傾け、ミナトの頬を指先でつまみあげる。
圧力に負け、人の限界を超えて形を変える骨格は、目の前に座っているのがクームフェルドであることを物語っていた。
面白かった、これからも読みたい、AI先生による絵が可愛いと思った方は是非、☆評価、ブックマーク、感想等をお願いいたします!!
基本毎日投稿する予定ですので、完結までお付き合い頂ければ幸いです。




