苦渋の決断
「すべてお見通しってわけか。白状するよ………相手は六大魔公が一柱、審美公『双頭のトート』。想像しうる限り最悪の相手さ」
「六大魔公ッ!?そんな、アルベラだけじゃなく他にもジェベルに………」
「何かの間違いではないのですか?だいたい六大魔公ほど悪名高い大悪魔が貴族の誘拐など、奴らの有する力と犯した罪の天秤が釣り合っていません」
アルシェの言葉は最もであった。
六大魔公………たった一人で国すら滅ぼしうる六柱の大悪魔。
その力の強大さは灰燼と帰した要塞都市カロの姿を見れば一目瞭然である。
六大魔公を打ち倒すには人の内から現れた強者ではなく、神が見初めた人の理の外にある勇者が必要であり、それ故に鮮血公『金色のアルベラ』を封印したミナトは、『神託の勇者』として国王に封ぜられたのだ。
世界を混沌に帰することを使命とする六大魔公が、魔物の軍勢を率いることもなく、直接王族を弑するわけでもなく、貴族の令嬢を狙って誘拐するという行動は、目的に対する行動があまりに非合理的であり、理性から結論を導き出すのであればエランの言葉はよく言って誤り、悪く言えば虚言としか思えないのも無理はなかった。
「間違いではないさ。テオが魔法で伝えてくれたんだ、貴族狩りの正体が『双頭のトート』であることを………そして貴族狩りのことも自分のことも忘れ、二度と関わるなとね」
「なるほどね、六大魔公が相手なら神託の勇者であるミナトの力を借りるしかない………身勝手な理屈ではあるけれど、理には適っているわね」
「信じられません。神託の勇者が治めるシンギフ王国の隣国を選んで暴れ回るなど、不自然です。………ミナト様、これは罠です。何者かが六大魔公の名を騙り、ミナト様を誘き出そうとしているに違いありません。救出に向かえば何が起こるか分かりません、御自重ください」
「アルシェが正しい。もし助けたいならアルベラかデボラでいい。ミナトはここで待ってる、それが正解」
「デボラでもいいって言い草は気に入らねえな。だけどよ、六大魔公が相手となりゃ、正直な話オレでさえ足手まといだ。冒険者であっても王であっても、彼我の戦力差を冷静に見極めて余計な犠牲を出さないってのが第一だ。戦いの世界に生きてりゃ感覚が鈍くなっちまうのも分かるが、死んだ人間は生き返らねえ。なんとかして助けたいって気持ちは分かるが、お前の身を案じる奴らの気持ちも考えてやれ」
アルシェとリオ、そしてデボラまでもが続けざまにミナトを止め、残る仲間達はミナトが下す判断を固唾を飲んで見守る。
「アルベラ、教えて欲しい。ボク達はリオなしで戦って勝てるかな」
「無理ね、断言できるわ」
「………リオは戦えないんだよね」
ミナトの問いにリオは無言で頷く。
その瞳は真っすぐにミナトを見据え、交渉の余地がないことは明らかであった。
「エランさん、申し訳ありません。ボクは双頭のトートとは戦えません。それが王としての判断です」
「………そうか。初めから到底無理な難題を吹っ掛けてるのは分かってたじゃない。時間を取らせてすまなかった。介抱してくれた礼だ、これを受け取ってくれ。たいしたものじゃないが、いつか役に立つ日がくるかもしれない」
エランは首から下げたラージバル伯爵家の家紋入り首飾りをミナトに手渡す。
「こんなことを言える立場ではない事はよく分かっています。ですが、エランさん、必ず帰ってきてください」
ミナトの言葉にエランは手を挙げて答えると、振り返ることなく天幕を後にした。
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