秘する想い
「それからテオは片言の共用語で、少しずつ自分の身の上を語るようになった。連れ去られるより前の記憶がないこと、自分が何処の国の生まれかすら分からないこと………知っての通り、この大陸に生まれ育った者なら亜人であっても共用語は自在に操れる。当時のテオは単語でのやり取り程度しか出来なかった事を考えると、奴隷になってから見様見真似で学んだんだろう。恐らくは、他の大陸から海を渡って連れてこられたと考えるのが妥当じゃない。残念ながら、奴隷商は俺が成敗してしまっていたから詳細は分からないけどねぇ」
エランは成敗というどこか滑稽さを含んだ言葉を選んだが、ジョークを交えつつも歯切れの悪い物言いは、紛れもない悪人相手とはいえ自らの手で人の命を奪ったことへの後ろめたさを感じさせた。
「貴方とテオって子の関係性はわかったけど、肝心のどうして従者が一人で豪奢な馬車に乗ってたのかって疑問が解決しないんだけど?」
「テオは特殊な魔法が使えるんだ」
「特殊な魔法?貴方の知識が足りないだけなんじゃない。真言魔法ならともかく、人間が使うような下等な魔法なんてどれも似たり寄ったりでしょ」
「相変わらず可愛い顔して口が悪いじゃない、エルムちゃん。しかし、こう見えても俺だって貴族の端くれだ、最低限の魔法の知識はあるさ。それにラージバル家にだって魔法の心得がある者もいる。だがテオの使う魔法は、誰も目にしたことも聞いたこともない不可思議な詠唱により、誰も想像しえない効果を発揮するんだ。何故魔法が使えるのかは本人にも分からないらしい。ただテオは使えるんだ、ひとりでに動く御者を作り出せるような魔法を」
エランの説明にミナトは再び深く考え込む。
実体のあるデコイや単純作業を行うゴーレムを作り出す魔法はこの大陸にも存在する。
しかし、御者のような精密な動作を要求される物体を創造することは、ミナトの知る限り大掛かりな儀式魔法でも用いない限り、この大陸の魔法体系においては不可能である。
テオはいったい何者なのか………ミナトは口にしかけた疑問を飲み込んだ。
その問いは今起きている事件とは無関係であり、けれども、口にした時点で後戻りが出来ない泥沼へと足を踏み入れることになると、冒険者の勘が告げているのだ。
「なるほど、要するにテオって子は馬車を勝手に一人で動かして、貴族狩りを捕まえようとしたってわけね」
「なんで従者が命令でもないのに、一人でそんなことするのよ」
アルベラの導き出した結論に、エルムが心底理解できないといった様子で疑問を投げかける。
「エルムお子ちゃまでウケるしぃ。愛する人の役に立ちたかったに決まってるじゃん」
「はぁ?あの従者は男でしょ??」
エルムは再び何を言っているのかと、ステラをジト目で見る。
「恋に性別は関係ないよ〜」
「んっ、濃厚な腐の波動を感じる」
「貴方達すこし黙りなさい。申し訳ないわね、揃いも揃ってバカばかりで。でもようやく得心したわ。家内で立場の悪い貴方のため、ジェベル王国内で悪名高い貴族狩りを誘き出そうと単身囮になったわけね。相手の実力を見極められない段階で主人を巻き込まないのは妥当な判断ね。魔法に自信があったっていうこともあるんでしょうけど、もしもの場合でも自分以外犠牲にならないよう策を講じたのも好感が持てるわ、ワタシ個人としては助けてあげたくなるくらい」
「本当か!?なら今すぐに………」
アルベラはすぐさま走り出さんとするエランを、人差し指を自らの唇に当てることで止める。
「まだ話の途中よ。最後の質問をいいかしら。貴方はどうやってテオが捕まった事を知ったの?助けに行こうとしているけど、何故拘束されている場所を知っているの??なにか意図的に伝えていない情報があるんじゃないかしら」
アルベラの瞳に紅い光が宿る。
蠱惑的なまでに美しいその輝きに、エランは魅入られるように口を開いた。
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