封印
「アルベラを封印?そっか、ようやく自分の罪を償う気になってくれたんだね。………リオ、せめて苦しまないように介錯してあげて」
「んっ、急展開」
リオは無表情なままで腰の剣に手をかける。
「隙あらばワタシを亡き者にしようとするの、止めてもらえる?」
「違うの?じゃあ、封印って………」
「王都でのやり取り的に封印する流れなんでしょ?ワタシとしても、封印されてる事にしないと自由に動けないし、不便で仕方ないもの」
アルベラは腕に枷を嵌められる仕草をし、肩をすくめる。
「でも、どうやって?」
「そうね………ミナト、もう王都にする場所は決まってる?」
「えっ!?………えーっと、近くに広い丘があるから何か建物でも作れないかなとは思ってるけど、家とか建てられたらいいなと思ってるくらいで、王都が何処とかそんな遠大な計画は何もないよ」
「十分よ、案内してくれるかしら」
丘は家から10数分ほど離れた位置にあった。
なだらかな斜面を背の低い草が覆い、登り切った先は数百メートル四方の平らな高台となっている。
「ミナトの言う通り、悪くない場所ね。ここなら六大魔公封印の地として相応しいわ」
「さっきから封印って言うけど、アルベラが魔法陣か何かの中でジッとしてるわけじゃないんだよね」
「もちろん違うわ。誰か来客がある度にこんな辺鄙な場所で動けない振りなんて、考えるだけで面倒。だから、こうするの」
アルベラは爪で手首の皮膚を薄く切り裂くと、溢れ出す血に向かい息を吹きかける。
「紅玉幻霧」
詠唱と共に血煙が拡散し、丘全体を赤く染める。
「心配だったけど、これなら大丈夫そうね。結晶操術」
アルベラが筆を滑らせるように指先を動かすと、無秩序に広がっていた深紅の霧が徐々に輪郭を帯び、人型に集約されていく。
無骨な操り人形のようなその結晶は、踊る指先に合わせ自在に姿を変え、目が、耳が、鼻が、唇が、細く引き締まった肉体が、そして金にたなびく柔らかな髪までもが再現されていく。
「凄い、まるでアルベラ本人だ」
「でも全裸。変態魔公」
「誰が変態よ。誰かさんに角を斬られたせいで魔法の細かな調整が難しくて、服の装飾まで再現できないだけ。顔とか身体の造形もいまいちだけど、ワタシの事を間近で見たことある人間なんて大抵死んでるから大丈夫でしょ。細部はミナトの指示に従って修正してもいいんだけど………どうする?身体中くまなく観察して、どこをどう直せば本物そっくりになるか、教えてくれるかしら」
「え、遠慮するよ」
「もう、奥手なんだから。まぁいいわ、仕上げをしておきましょう」
魔法で構築されたアルベラを模した人形が、透明な結晶に覆われていく。数分もすると数メートルはあるクリスタルの層が完成し、僅かに感じられた人形の不自然さも光の屈折により目立つ事はなくなった。
「これでワタシの封印は完璧ね」
「確かにこれならバレないと思うけど、どうしてこの位置を選んだの?山奥とか洞窟とか、もっとそれっぽい場所は幾らでもあるのに」
「監視が行き届かない場所に作ったら、名を上げたい冒険者が封印されてるのを良いことに、人形を殺しに来るかもしれないでしょ。並みの冒険者じゃ結晶は壊せないけど、不安要素は取り除くべきだもの。それに遠隔地に封印すると、実は封印が解けてるんじゃないかとか、本当はミナトとワタシがグルで封印されてる事にしてるだけなんじゃないか、って疑う声も出そうじゃない?その点、王都の中心部にあれば部外者は近寄れないし、疑われた場合すぐに証拠を見せられるもの」
「観光地にもなる。六大魔公饅頭。多分バカ売れでウハウハ」
「そんな食べると呪われそうな土産物、嫌だよ!!でも、これでアルベラの封印問題は解決だね」
「それで次はどうするの、ミナト。さっきの話だと、王国からの使者が来るまで数日はありそうだけど」
ミナトはしばし考え込み、やがて考えがまとまったのか、ゆっくりと口を開いた。
「それなんだけど、会いたい人がいるんだ。きっと王国の運営にも力になってくれると思う。ただ、ちょっとだけ個性的というか、パワフルな人だからビックリしないでね………」
苦笑いを浮かべるミナトの姿に、リオとアルベラは不思議そうに顔を見合わせた。
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六大魔公饅頭は恐らく黒糖を使った皮がパサパサなタイプなはず




