王の正装
「やっぱり着替えないとダメかな。いつも通りの服の方が動きやすくて楽なんだけど」
「ダメです。他ならぬミナト様の命令ですので、絶対に守って頂きます」
アルシェは『ミナト様の命令』という部分を殊更強調し、いつも通りの真顔で詰め寄る。
「ううっ、そう言われると弱いな………。わかったよ、アルシェ手伝って貰っていい?」
アルシェはミナトの問いにコクリと頷くと、冒険者然とした平服の代わりに、ジェベルから送られた布地でしつらえた正装に着せ替える。
光沢のある白地に金と濃紺の刺繍が施された布地には、先日シャルロッテが言っていたようにそれだけで平民の慎ましやかな生活を数ヶ月賄うだけの価値があるだろう。
ミナトは最初この布地を売り払い、王都のインフラ整備に充てようとしていたが、湖畔での会話を仲間達に話したところ、ミナトも目に見える形で王としての威厳を演出した方が良いのではないかという意見があり、議論百出のうえミナト自身が王としての正装として仕立てることを決めたのだ。
それは自らが王としての振る舞うことへの決意表明であり、内外に目に見える形でミナトの威光を示すことで、シンギフ王国という新興国に少しでも正統性を持たせようという試みでもあった。
このような崇高な意志により作られた正装であったが、いざ袖を通すとなると気恥ずかしさや申し訳なさが勝ち、また実際に動きにくいことから敬遠していたのだが、新たな移住者を迎えるにあたり遂にお披露目となったわけである。
「大丈夫かな、変じゃない?」
ミナトは恐る恐るアルシェに感想を求める。
「とてもお似合いです。威厳の中に美しさと力強さがあり、六大魔公に打ち勝った若き英雄王に相応しい出立ちかと。皆様もそう思われますよね」
「えっ?」
アルシェの言葉の意味を聞き返そうとすると天幕の入り口が左右に開かれ、興味津々といったオーラを全身から発する仲間達が、ミナトの晴れ姿を間近で観察すべく駆け寄ってくる。
「すごいすごいすごい、キラキラでカッコいいぞ!!」
「似合ってるじゃん、ブレニムの民は人間みたいな正装が着れないから羨ましいなぁ」
「ミナトっちは可愛いから、これくらいカッコいい服の方がバランスいいね~」
「おぉ~、超良い感じだしぃ」
「まっ、悪くはないんじゃない?」
「んっ、さすミナ。その格好で顔見せすれば新しくハーレム入りしたい人間が続出するはず」
「そういう目的で着てるわけじゃないからね!?でも、変ではないみたいで安心したよ」
ミナトがホッと胸を撫でおろすと、仲間達は衣装の作りが気になるのか指先が触れそうな距離まで近づき、ミナトに話しかけながら襟や袖、裾を無遠慮に引っ張る。
「何やってるのよ、御一行様が門の近くまで来てるわよ」
「ゴメン、すぐ行くよ」
「では、参りましょう」
アルシェが先導する形で、ミナトは初めて正装で天幕の外に出る。
城門めがけ大路を歩くと、ミナトの姿を目にした王都の民から一斉に歓声があがる。
「なんか動物園のパンダになった気分なんだけど………」
「んっ、集客力抜群、見物料まきあげるべき」
「動物園もパンダも寡聞にして存じ上げませんが、服装が変わっただけでこれだけ反応が変わるというのは面白いですね」
「酒場でも、うちらと似たウサ耳を若い女の子がつけるだけで、お客さん大盛り上がりだしね。ミナトも頭につけてみるしぃ?」
「チッ………ただでさえ脳味噌にまで性欲が詰まった怪しげな客層になってきているので、これ以上余計な性癖をこじらせた客を呼び込まないで頂けますか?これだから年中発情期の尻軽ウサギ女は………」
ザッ
不意に前を遮るように一人の男が飛び出す。
男は息を切らしながらも、膝をつき深々と頭を下げる。
「なっ、いきなり何よ!?」
「んっ、あからさまに不審者。大名行列ならぬ国王行列を止めた罪はベリーギルティー、切り捨て御免が許されるパターン」
「そんな物騒な世界観じゃないからね!?あ、あの、どうされたんですか………あれ、エランさんじゃないですか??」
「ミナト………助けてくれ………」
エランはそう呟くと、意識を失い地面へと倒れ込んだ。
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