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異世界ハーレムは義務です~0からはじめる建国物語~  作者: 碧い月


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月往く蝶

 トートでありレーベでもある肉体が僅かに力を込めると、拘束していた銀糸が弾けるように千切れ、キラキラとした輝きと共に風に運ばれていく。


「『双頭のトート』………その二つ名嫌いなのよね。それじゃ、まるでアタシがオルトロスみたいに2つの首を持ってるだけの魔物みたいじゃない。アタシとレーベ、2人は体という絆で結ばれた不可分な存在だけれど、別人なわけよ。せめて『双頭のトート&レーベ』って言うべきでしょ」


「兄さん、長いよ。それにせっかく1つの身体に2人の魂が宿っているという新鮮な驚きを潰してしまう。美しくない。歴史の裏に隠れた僕が登場した時、相手は初めて二つ名の真の意味を知る。素敵な演出じゃないか、僕はよい二つ名だと思うよ」


「それもそうね。あらっ、置いてけぼりにしてごめんなさい。お客さんを放っておいて、ついつい兄弟で盛り上がっちゃうの、悪い癖ね。さぁ、さっきので終わりって事はないでしょ?今日は昂ってるの、貴方の全てを曝け出して頂戴。全部受け止めてあげる」


 トートが言い終わるよりも先に、術者が印を結ぶ。


「幻影多元陣『煙』!!」


 黒煙が馬車を満たし、視界を奪う。

 同時に馬車の揺れが止まり、周囲から音が消える。


「へぇ、凄いじゃない、何も見えない聞こえない。これじゃ、お手上げね」


「兄さん、その嘘は懸命に戦ってくれている彼に失礼だよ。僕達の六大魔公には幻術は効かない。冒険者でも知ってることさ」


「そんなに知れ渡っちゃってるの?勉強不足だったわ。まぁ、こんな見え見えの誘導をしてくるって事は、他に本命の魔法があるのよね」


「黒影投射陣『顎』!!」


 車内を包み込む闇が大口を開け、無防備な兄弟を一飲みにする。

 高所から落下するような浮遊感が兄弟を襲い、初めて体験する感覚にトートが口笛を鳴らす。


「面白いわね、癖になりそう」


「兄さん、感心してる場合じゃないよ」


 筋肉質でしなやかな腕が闇をこじ開けると、そこには術者の姿はなく、満点の星空が広がっていた。


「凄い、いつの間にか馬車の外に放り出されてる。どういう仕組みなのかな」


「影に敵を取り込んで、光源の方向に射出する一種の転移魔法ね。さっきの馬車には転移阻害の魔法がかかってたように思うんだけど、根本的にアタシ達とは異なる体系の魔法なのかしら。ますます面白い子ね。本当ならアタシ達に一杯食わせた事を讃えて見過ごすんだけど………」


 トートがレーベの瞳を見つめると、レーベの瞳が怪しい輝きを帯び、トートの身体………つまり己の肉体を飲み込んでいった。







「月影蝶、エラン様の所にお願い。絶対に来ちゃ駄目だって伝えて、早くっ」


 扉が失われた馬車から仄かに青く発光する数十の蝶が飛び立っていく。

 月光を切り裂くように飛翔するその姿は美しく、どこか儚さが漂っていた。


「誰へのメッセージ?恋人かしら、その若さで隅に置けないわね」


 術者は突如首筋に感じた生暖かい吐息を振り払うように背後を腕で薙ぎ払う。

 しかし、その渾身の一撃は指先で止められる。


「そんな………転移魔法は封じたはずなのに………」


「貴方には貴方の理があるようにアタシ達にはアタシ達の理があるの。そろそろこのゲームはお終い。せっかくこんなに可愛い獲物がかかったんだもの、とびきり素敵で、とびきり残酷な遊びをしましょう」


「多重障壁………」


 トートは新たに印を結ぼうとする術者の指に自身の小指を絡めると、瞳を覗きこむ。

 すべての光を飲み込むような漆黒の瞳が意識を刈り取り、グッタリと倒れ込もうとする華奢な体を抱き留める。


「ふふっ、とっても楽しい夜になりそう」


 トートの言葉に、レーベは答えることなく舌を唇に這わせた。

面白かった、これからも読みたい、AI先生による絵が可愛いと思った方は是非、☆評価、ブックマーク、感想等をお願いいたします!!

基本毎日投稿する予定ですので、完結までお付き合い頂ければ幸いです。

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