月夜の轍
「馬車一台だけで大丈夫?やっぱり、ターントゥまで送るよ」
「お心遣い感謝いたします。ですが、ただでさえ人手が足りないなか、ワタクシを見送るために労力を費やして頂くのは本意ではありません」
二人が王都に戻ると既に支援物資の積み下ろしは終わっており、足の遅い荷馬車はシャルロッテが事前に指示した通り一足先に帰途についていた。
「でも、最近物騒だからさ。せめて日がある内に帰れるよう、今日は泊っていったらどうかな」
「巷間を騒がせている『貴族狩り』が出たら、逆に見事打ち果たしてみせますわ!!少数とは言えクルブレール家きっての使い手を護衛につけております、どうかご心配なく」
そこまで言われ、ミナトは初めて刺すような鋭い視線の正体に気づく。
クルブレール侯爵家の家紋が刻まれた白銀の大型馬車には既に御者がおり、それとは別に同乗する護衛と侍女が数名控えている。そして馬上の騎士が2名。
如何にも歴戦の猛者といったいかつい風貌をした二人の騎士は、執拗に主人の安否を心配する他国の王の好意を自らへの侮辱と捉え、怒気を隠せずにいた。
「ミナト、これ以上引き止めるのは野暮ってものよ」
アルベラの助言にミナトは開きかけた口を閉じ、騎士達に目礼する。
「では、失礼いたします」
シャルロッテは一礼をすると侍女に伴われ馬車に乗りこむ。
一際大きな馬車は、ミナトに見送られ地平線の彼方へと消えていった。
「………行ったね。はぁ、ボクはダメだ。危うくシャルロッテの家臣に恥をかかせるところだったよ」
「んっ、実際弱いから仕方ない」
「頼りないのは確かだけど、だからと言って自分の主人を他国の手勢に任せるようなポンコツじゃないのは評価すべきね。どうする、見つからないようにワタシが護衛についてもいいけど?」
ミナトはアルベラの提案に少し考え、首を横に振った。
「やめておくよ。シャルロッテが家臣を信じたように、ボクもそうする」
街道を馬車が走る。
既に日は落ち、車輪が作る轍は出来た先から闇に飲まれていく。月明かりが車輪の影を道に映し出し、影が滑るように移動する。
ガタン
不意に何かが倒れたような音が軛を通じ座席に伝わり、車内に緊張が走る。
まるで手綱を引く者がいなくなったかのように馬車の速度が上がっていき、荷台がガタガタと揺れる。
ガチャリ
突如扉が開き、真冬の寒風が車内を満たしていく。
「こんばんは、夜のお散歩中にゴメンナサイ」
扉に掴まるように立つ男は、絶え間なく揺れる足場を気にすることもなく片手で髪をかき上げると、ゆっくりと車内に視線を泳がせる。
「あら、お一人?不用心ね、噂の貴族狩りを知らないの。御者は魔法で作られた木偶人形だったし、こんな夜更けに何処に行くつもりだったわけ?………ふふっ、無口なのね。いいわ、当ててあげる。人を待っていたんでしょ。そしてようやく待ち人来たるってやつ。図星ね」
男が馬車に乗る何者かのフードに手をかけると、車体が激しく発光し魔法陣が浮かび上がる。
「多重拘束陣『縛』!!」
まだ幼い声が馬車に響き渡り、不敵な笑みを浮かべる男に目がけ、蜘蛛の糸を思わせる無数の銀糸が襲い掛かる。
「へぇ、始める味わう魔法ね。ジェベル式でも帝国式でもないわ、ぞくぞくしちゃう。貴方何者?」
「黙れ。そこから一歩でも動いたら首を断ち切る。命が惜しかったら大人しく投降しろ」
「勇ましいわね、勇敢な子は大好きよ。さぁ、どうやってこの窮地を脱しようかしら、レーベ。まさに絶体絶命ってやつだわ」
木々の隙間から漏れる月光が男の顔に埋め込まれた鋲を怪しく輝かせる。
蜘蛛の巣に捉えられた獲物は、危機を舌の上で転がすようにニタリと口角を歪めた。
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