奪う者の責務
シャルロッテは王女の証明たるティアラを自らの頭上に戻し、背を伸ばす。
「王族が身を飾ることが罪だと言うつもりはありません。人も亜人も、恐らくは魔物でさえも、生きとし生ける者は目に見える事実を最も優先します。王が王たる威厳を備えるためには、一目で他者とは異なる象徴が必要であり、それが王冠であり豪奢な衣服なのです。争いはお互いが近い存在だと認識することから生まれます。日の暑さに辟易としたからといって、太陽に戦いを挑む者はいません。支配するものと支配される者、それを隔てるための視覚的な演出がなければ、争い絶えないでしょう」
ミナトはジェベルの王都ハイペリオンでの光景を再び思い起こす。
自分が恐懼したのはジグムンド3世の能力や器量か、それとも王を王たらしめる演出に対してか。
結論の出ない問いは、呪いの如く心の深い部分に沈んでいく。
「金の王冠を頭上に戴く王に、平民が生涯かけても手にすることが出来ないほど高価な衣装をまとった貴族がかしずき、その貴族に対し煌びやかな鎧をまとった屈強な騎士が忠誠を誓い命を捧げる。平民から騎士を目指す者はいても、貴族を、ましてや王を目指すと口にすれば狂人の戯言と切って捨てられるでしょう。このような虚構を作り、仮初めの平和を維持するために、王は奪っているのです。終わりなく際限なく、奪うという行為それ自体が、王の王たる所以だとでも言うように」
自らが奪う側に立っているという事実が口からあふれ出る思想に棘を与える。
「ミナト様がどれだけ清貧でいらっしゃったとしても、王である以上、奪う者の責務から逃れる事は出来ません。税として金銭を奪い、労役により時間を奪い、法により自由を奪い、国防のために命までも奪います。王は無数の物を国民から奪います。だからこそ、奪う者の責務から逃げてはいけない、ワタクシはそう考えています。財により道を作り、労役により川を切り開きます。法により民の安らかにし、国防により民の生活を、そして命を守ります。奪う者は奪われた者にそれ以上の価値を返さなければなりません。そして、もし王としての務めを果たせなくなったとしたら、王という存在が民の為にならなくなったとしたら………………民により王位を追われ、時に命を奪われることすら受け入れる。それが王の、王族の責務だとワタクシは考えています」
淀みなく言葉を紡ぐシャルロッテの姿は、哲学者のようでもあり、求道者のようでもあり、しかし誰よりも正しく王女のものであった。
「ふふっ、理想の王とは少しずれた答えとなってしまいましたわね、ワタクシとした事が気持ちよく語りすぎましたわ」
「ううん、ありがとう。奪う者の責務………ボクはまだ王としての自覚が足りないんだと思う。多くの人から奪っていることを自覚できていたら、簡単に自分の責任から逃げるって発想が出てこなかったはずだから。まだ全然理解できていないけど、一度一人でしっかりと考えてみるよ」
「そう言って頂けると語った甲斐がありますわ。ですが、もしミナト様が虚飾で自らを覆い隠す必要がない王であるなら、それこそが真の王なのかもしれません……………ワタクシもそうでありたかったです」
「シャルロッテ………やっぱりボクにはキミが必要なんだ、これからも色々教えて欲しい。だからいつでも気軽に遊びに来てね。待ってるから」
「唐突な告白ですの!?お許しがなくとも週一で参りますわ~!!それでは、戻りましょうか。これ以上臣下を待たせてはあらぬ噂を立てられてしまいますし。もちろん、ワタクシとしてはそちらの方が好都合ですが」
シャルロッテはいつも通りの屈託のない笑みを浮かべ、誰かに聞かせるように高笑いする。
それは自らに圧し掛かる虚構を一人耐え忍ぶ、か弱い少女の悲鳴のようにも聞こえた。
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