初仕事
「おはようミナト。ところで、さっきから何してるの?」
アルベラが目を覚ますと、視界の大半がミナトに覆われており、耳元では金属がぶつかり合うような聞きなれない奇怪な音が響いている。
「あっ、ゴメン、起こしちゃった?ほらっ、無敵とは言っても、何かの弾みで殺せる時があるかもと思って、毎日試してみる事にしたんだ。気にしないで」
「気になるわね、だって、殺されそうになってるのがワタシだから」
アルベラがそう言うと、ミナトは額に滲んだ汗を袖で拭い、何事もなかったかのように剣を鞘に収める。
「えっ、なに、ワタシ毎日これされるの?身体は傷つかなくても、心は傷つくんだけど」
「分かった、明日からはなるべく寝込みを襲うことにするよ」
「………検討してもらえると嬉しいわ」
身体の上に馬乗りになって満面の笑みを浮かべるミナトに対し、アルベラが次にかけるべき言葉を探していると、リオが部屋に入ってきた。
「リオ、ちょっと聞きたいんだけど、ミナトに危ない薬でも飲ませた?だいぶ様子がおかしいんだけど」
「んっ、ミナトは昨日大人の階段登った」
リオは少し誇らしげな面持ちで答える。
「ワタシの知ってる大人のイメージとかなり乖離してるんだけど、貴方達の常識って世間一般と合ってる?まあいいわ。王都で冥王の大鎌を振り回したところまでは覚えてるんだけど、また途中から記憶がないのよね。簡単に現状を教えてくれる?」
「ミナトが王様になった」
またまた誇らしげなリオに、アルベラは小さくため息をつく。
「ちょっと簡単すぎるわね」
「リオ、大丈夫だよ。ボクが説明するから」
ミナトはベッドから降りると、落ち着かない様子で部屋の中をグルグルと早足で歩きながら、記憶を整理するように一つ一つ順を追って話していく。
リオによりアルベラが気絶したこと、ミナトが神託の勇者となったこと、王に国を要求したこと、そうしてシンギフ王国が誕生したこと。
どれもこれも現実味の欠片もないような出来事だが、全てが数時間前に起こった事であり、その興奮はまだミナトの心臓を激しく脈動させている。
「国のことも気になるけど、その前に貴方ワタシの後頭部を剣でフルスイングしてたの?」
「んっ、ちょっと違う、これで角を………」
「うんっ!!目にも止まらぬ早業だったよ!!全員ボクが神の奇跡でアルベラを従えてるって思ったみたいだし!!」
ミナトはポシェットをまさぐり聖イトノコボルグを取り出そうとするリオの手を掴み、真実を覆い隠すように嘘を重ねた。
「はぁ、記憶が意識ごと消し飛ぶはずだわ。せっかくミナトに妖艶な演技指導をしてあげようと思ったのに………まっ、それはまた今度ベッドの上で実践するとして、今はやるべき事を進めないとね」
「やるべき事?」
「そう、ミナトの国王としての初仕事………分かるでしょ?」
アルベラは未だ落ち着かない様子のミナトをグイっとベッドに引っ張り込むと、今度は自らが馬乗りになって互いの鼻が触れ合うほど顔を近づける。
湿り気を帯びた桜色の唇から零れると息が頬をくすぐり、ミナトは思わず股間を抑える。
「初仕事って………」
「もう、分かってる癖に。とっても大事な、アレよ」
「んっ、ハーレム物の基本。超緊急で超大事な用事を思い出したから、今から2時間くらい席を外す………3時間のほうがいい?」
「要らないから、そういう配慮!!」
「ミナトは見られてる方が興奮するタイプ?ハイレベル」
「違うから!!アルベラも何か言ってよ!!」
「ふふっ、ワタシは見られてる方が好きよ。これからの事もあるし、出来れば3人一緒にやりたいのが本音だけど」
「3人で!?」
「んっ、ハーレム物の応用。レビューが荒れかねない禁断の技」
「なに冷静に分析してるの!?ダメだよ、心の準備が………」
「ふふっ、ダメなんて言わせないわ………だって、ジェベル王国からの使者が来る前に済ませておかないと、両国間の絆に亀裂が入りかねないもの」
アルベラが悪戯っぽい笑みを浮かべると、期待に胸と肉体の一部を膨らませていたミナトが真顔に戻り、僅かな怒気をはらんだ声色で問いかける。
「アレって、ひょっとして」
「そう、ワタシの『ふ・う・い・ん』」
アルベラは揶揄うように指をチッチッチッチッと小刻みに揺らすと、最後にミナトの鼻先に口づけをした。
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この状況で一応断れるミナトさんの心の強さ、見習いたい