ひとつの王座、ふたりの継承者
「先王の死、そして母の幽閉は国内外に大きな衝撃を与えました。当然、あらゆる手段を使って情報封鎖は行われましたが、人の噂を止めることは誰にも出来ません。母は南部貴族の間では王であり夫を殺した毒婦として蔑まれ、北部貴族の間では政争の具として無実の罪を着せられた哀れな子羊として同情を集めました。この事により南北の溝は一層深まったと言えるでしょう。このような状況下において事態の収拾を図ったのが現王であり、ワタクシの義父であり、王弟であったジグムンド3世です」
ミナトはジェベルの王都ハイペリオンで激論を交わしたジグムンド3世の威厳溢れる姿を思い返す。
雄大な体躯と威風あたりを払う風格、どのような事態にあったも落ち着きを失わない胆力に、あらゆる状況に対応しうる決断力。
僅かなやり取りの中で、ジグムンド3世という王の存在はミナトの為政者像に多大な影響を与えていた。
「義父が先王の遺志を継ぎ王位に就くと宣言したことは、北部貴族に強い反感と一つの疑いを与えることとなりました。義父が王となるために兄である先王を暗殺したのではないかという疑いです。先王がこの世を去り一番得をした人間はと考えた場合、誰しもが義父をあげるでしょうから、この疑念を根拠のない妄想だと切って捨てることは誰にも出来ませんでした。ジェベルでは初代より王の長子を持って次王となすという先例があったことも、義父の行動に疑念を抱かせる原因となりました」
「王の長子………シャルロッテの事だね」
ジェベル王国第一王女シャルロッテ、第二王女エルフリーデ。
年齢の変わらない二人の王位継承者の存在は、ジェベル王国内のみならず大陸に住む者であれば誰もが知っていた。
「祖父を始めとした北部貴族は、母の復位とワタクシの戴冠を強く求め、次第に義父との対立を深めていきました。国内に流れる不穏な空気が他国に知れ渡るのに時間はかかりませんでした。特に帝国はジェベルの南北融和がなり、強い王権のもと再統合されることを憂慮していましたから、先王の暗殺という国の根幹を揺るがす大事件を機に、北部貴族と組みジェベルに楔を打ち込もうと考えたとしても不思議ではありません。………内乱の火の手がジェベル全土に迫ろうとしていました」
「でも、内乱は起こらなかった………」
「母を救い出し、義父と一戦を交えようという声が北部貴族を中心に日増しに高まるなか、母が帝国と通じ先王を暗殺すると約した密書が見つかったのです。いえ『見つかったとされている』というのが正しいでしょう」
「見つかったとされている………シャルロッテはその書状を見たことはないんだね」
「はい。母が机に向かい、祖父や親しい友人に手紙をしたためていた事は覚えています。ワタクシが拙い字で、その手紙に『大丈夫、ママもシャルロッテも元気だから心配しないで』と書き足したことも」
シャルロッテは過去を懐かしむように遠くを見つめる。
湖の表面を撫でるように風が吹き抜け、シャルロッテの細い金の髪がたなびく。
「母が父を裏切り、国を裏切ったという事実は、ジェベルの元老に位置づけられる一部有力貴族のみに伝えられ、やがて全ての貴族の口の端にのぼることとなりました。証拠である書状が公表されなかったこと、発覚のタイミングが良すぎること、そして母の罪を糾弾したのが王位を狙う義父であった事が、事態の一層の混乱を招きました。混沌とした空気のなか、母は王都ハイペリオンの歴代王族が眠る墓標を見下ろすことが出来るテティスの塔に移され、沙汰を待つこととなったのです。それが母との別れでした」
シャルロッテの頬をキラキラと輝くなにかが伝う。
ミナトはそれが何であるか問うことなく、共に湖を見つめた。
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