王として、友として
「シャルロッテ、速いってば。道も悪いし、あんまり飛ばすと危ないよ」
「ミナト様はワタクシが『ジェベルを駆ける天馬』という二つ名も持っていることをご存知ではないようですね。こう見えて、小さい頃から馬を駆っておりましたの、捕まえられるものなら捕まえてくださいまし」
シャルロッテは自身と同じ金色のたてがみを揺らす駿馬の脇を踵で蹴ると、あっという間にミナトを引き離す。
「待ってってば!!」
ミナトは視界から消えんばかりの勢いで馬を走らせるシャルロッテを必死の思いで追いかける。
数分も経つと目的地である人造湖が眼前に迫り、二人は同時に手綱を緩めた。
「ゴーーーーールッ!!ふふっ、ワタクシの勝ちですわね」
「うぅ、結局一度も追いつけなかった………負けたよ、ボクも結構手綱さばきには自信があったんだけどなぁ」
ミナトがガックリと肩を落とすと、シャルロッテは人差し指で1番というポーズを取り、無邪気な笑みを浮かべる。
「でも、天幕じゃなくて良かったの?手分けして見回ったとは行っても、まだ昨日の残党がいるかもしれないし、あんまり風光明媚ってわけでもないけど」
アンデッドの襲撃を退けたあと、王都周辺はアルベラの指揮の下、近隣に留まっていたブレニムの民とベスティアにより、徹底的な哨戒が行われていた。
特に多数のアンデッドを使役するに当たり用いられるであろう魔具や呪符、魔法陣について重点的に調べてはいるが、それらの痕跡は羊皮紙一枚見つからず調査は難航している。
つまり王都の外は未だ危険地帯であり、本来であれば一国の王女を護衛もなしに連れまわしていいような場所ではなかった。
「ふふっ、もし敵が現れてもミナト様がババッと倒して下さるのでしょう?心配ご無用です」
「無茶言うなぁ」
ミナトは苦笑いをすると、一足先に馬から降りシャルロッテの下馬を手伝う。
鼻腔をくすぐる爽やかな香水の香りと、シャルロッテの柔らかな掌の感触に、ミナトは無意識に視線を下に落とす。
「ありがとうございます。それにしても、こんなところに湖があったのですね。まだまだワタクシは知らないことばかりです」
「いやぁ、あったというか作ったというか………ともかく、ここは周囲に隠れる場所もないし、話を盗み聞ぎされる可能性は少ないよ。一応魔具も使ってるしね」
ミナトは『静寂』の魔法が込められた呪符をチラリと見せる。
「お気遣い感謝いたします。近頃ワタクシに求婚でもしたいのか、顔どころか気配すら隠して無遠慮につけまわす殿方が多くて困ってしまいますわ。人気がありすぎるのも考え物ですわね」
シャルロッテは悪戯っぽく笑おうとするが、その瞳には嫌悪と諦観が宿っていた。
「ボクは一介の冒険者でしか無かったから、シャルロッテがどれだけ苦労してきたか、いまどれだけ苦しんでいるのかも分からない。お互いに立場があって、言えないことは沢山あるのも理解してるつもりだ。それが国政を担う者の運命だってことも。だけど、知りたいんだ。ジェベル王国のことを、シャルロッテのことを、シンギフ王国の国王として、友人として」
シャルロッテはドレスの裾を軽く持ち上げ、微かに打ち寄せる波に近づく。
「湖なのに波があるのですね。風の影響でしょうか。それとも地下水の流れが疑似的に波を作り出しているのか………本当にワタクシには分からないことだらけです」
ミナトは、一人の少女となって大自然に身をゆだねるシャルロッテを、ただ黙って見つめる。
「………少しだけ昔話をしても良いでしょうか。ミナト様にとっては退屈な話かもしれませんが、ワタクシの口からお話したいのです」
そう告げる少女の顔は、王女のようでもあり、助けを求める子どものようでもあった。
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