王女墜落
ゴギンッ!!
硬質な落下音が黄バラのオブジェを通じ、一観客であるミナトの鼓膜を震わせる。
「ーーーッ!!」
シャルロッテは着地というより墜落といった方が正しいであろう形で、黄バラの中心部に置かれた金の縁取りがなされた美麗な椅子に腰にかけるが、想像を超える衝撃に喋ることが出来ないのか、「少しお待ちくださいまし」と言いたげに片手を前に突き出す。
待つこと数十秒。
シャルロッテが髪をかきあげ、金糸を思わせる艶やかな長髪が陽の光を受け辺りを照らす。
「王都に舞い降りし一輪の黄バラ、ジェベル王国第一王女にしてミナト様の運命のフィアンセ、シャルロッテの登場ですわ〜!!!!!」
「シャルロッテ、顔!!まつ毛パッキパキに凍ってるから!!」
ミナトの指摘にシャルロッテの金のまつ毛が一本パキリと折れ、風に吹かれ飛んでいく。
「ふふっ、流石ワタクシの未来の旦那様、妻の些細な変化に気づいて頂き感謝感激ですの。そのうえでミナト様、ひとつお伝えしたいことがございます」
シャルロッテが威儀を正すと、ミナトはそれに釣られるように背筋を伸ばし、恐る恐る問いかける。
「何かな」
「冬の空、くっそ寒いですわ!!!!!!ちょっと位ならイケるイケると思って、飛行の呪符で気軽に空で舞って&待っておりましたが、あっ今の爆笑プリンセスジョークですのよ?………とにかく、途中何度も意識を失いかけましたの!!ミナト様が気づかない振りの焦らしプレイを始められてからは、何度このくっそ重いキンキンに冷えたティアラをミナト様に向かって投げつけようと思ったか分かりませんわ」
「理不尽ッ!!あとお姫様が使っちゃダメな口調になってるから!!」
「………失礼いたしました。改めまして、昨日王都が戦禍に見舞われたとの噂を聞きまして、夜通し馬を走らせ駆けつけました」
「んっ、情報が早すぎる件」
不意にリオがミナトの背後に現れ肩に顎を乗せると、騒ぎを聞きつけたのか政庁となっている天幕で政務を執っていたアルベラも顔を出す。
「確かに、王都に密偵でもばら撒いてるのかと思うくらい迅速な対応ね」
「人聞きが悪いですわ!!ワタクシはただミナト様のことを思うと居ても立ってもいられず、普段から親しくさせて頂いている方から情報を貰い、まかりこしただけですのに!!」
「なんか良い話っぽく言ってるけど、やっぱ情報屋的なのいるんだ!?やってること結構ギリギリだよ??」
「こんなバカでかいオブジェを真夜中に気づかれることなく設営とか、誰かの手引きなしで出来るわけないわね。はぁ、知らない間に数十人単位で許可なく他国の人間が王都に入り込んでるし、この国の防諜体制はどうなってるのよ。まっ、ほかならぬジェベルのお姫様のやったことだし、今回は大目に見るけど協力者にはお仕置きが必要ね」
「ワタクシが無理やりお願いしたことですので、寛大な処分を乞いますわ~!!………………コホンッ。ミナト様、シンギフ王国の皆様。この度は突然戦禍に見舞われることとなり、大変なご苦労をなさったかと拝察します。中には深手を負った方もいらっしゃると伺い、せめてもの慰みにと支援物資と共に駆け付けた次第です。ポーションや薬の他にも、資材や冬場に不足しがちな衣類、毛布などもお持ちしました。是非お納めくださいまし」
シャルロッテが膝を折り深々と頭を下げると、その気品に打たれたように周りを取り囲む王都の民も見よう見真似でお辞儀をする。
「流石は大国の第一王女ね。奇行はともかく、辺りを払う威風と人を惹きつける天性の才を持ってるわ。あんまり国民にお姫様を見せると、せっかく身体を張って培ってきたミナトへの支持が掠めとられっちゃうかもしれないし、早いところ天幕に案内しましょう」
「んっ、外ではハーレム展開も難しい………逆に有り寄りの有り??」
「無し寄りの無しだよ!!シャルロッテ、むさくるしい所だけど、ボクの天幕に来てくれるかな」
「未来の旦那様の頼みとあらば、慶んでお供しますわ~!!」
シャルロッテが黄バラから飛び降りると、ミナトは慌てて抱きとめる。
一国の王と王女が万座の前に抱きしめ合う光景は、あたかもシンギフ王国とシャルロッテの友好関係を何者かに誇示するようであった。
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