命の源
「これ、いつになったら終わるのよ!!」
「いえ、お気になさらず」
何度目かの噛み合わない会話がミナトとエルムの間で交わされる。
ミナトの瞳は悟りの境地にダース単位で到達した者のみが持つ澄んだ輝きを帯び、その背筋はツタンカーメンよりもピンと伸びていた。
一方でエルムは世界最高レベルのテクニックを自称する手技が通じないことで完全に意地となっており、膝枕を早々に放棄しミナトの真横に座り一心不乱に右手を上下させている。
男と女、意地とプライド、誇りと尊厳を賭けた低レベルな戦いが、天幕内の温度と湿度を高めていく。
不意にエルムの動きが弱まる。
慣れない動きによる肉体的疲労、いつ終わるか分からないという精神的疲労、そして自らプロフェッショナルを自称するという誰も得をしない嘘によるプレッシャーが、まだ年若い少女の身体を蝕んでいく。
(………勝った?)
そもそも何の勝ち負けを競っているのかという根本的疑問すら抱けないほど思考能力が低下しているミナトは、エルムの様子を見て勝ちを確信する。
しかし、それは更なる試練の始まりでしか無かった。
「目を瞑りなさい」
「えっ?………うん」
「私が許可するまで絶対目を開けないこと。約束しなさい」
「はい、承知しました」
一度は素に戻りかけたミナトだが、歴戦の冒険者が有する危機への嗅覚により再び涅槃へと至る。
「あっ………」
温かで湿った感触が、一人の少年を瞬時に涅槃から天国へとスライドさせる。
それは涅槃と呼ぶにはあまりに刺激的すぎた。熱く、湿り、速く、そして大雑把すぎた。それはまさに天国だった。
ミナトに涅槃と天国の違いを考える能力はとうに失われている。
あるのはこの世界の道理に抗おうとする確かな決意のみ。
「あっ」
「ンンッーーー!!うぉっほ、ふぁひ、ふるのほ!!ンーーーーッ!!ほんだけだふひはのほ!!!」
まるで何かを咥えているかのように不明瞭なエルムの抗議がミナトの分身を激しく振動させ、その刺激が少年の肉体から数億という命の源を搾り取っていく。
何時間経ったのだろう。
いや、それは錯覚であり、実際は数分………数秒のことであったかもしれない。
もう一人のミナトが柔らかで心地よい鳥籠から外界へと解き放たれ、人生で初めて体験する途方もない解放感にミナトは肉体から芯が抜けおちたかのように脱力した。
「おえっ、何これ、粘っこいし、苦いし、口の中に絡まるし………これのどこが楽しいの。これだから下等な種族の遊びは嫌なのよ、動物と変わらないじゃない」
エルムはありったけ文句を、本人としては自分自身にしか聞こえないほどの囁きにより、他者にとってはいつも通りの怒声に込め、口の中に溜まっていた何かとともに吐き出す。
同時にミナトの鼻腔を嗅ぎ覚えのある匂いが満たし、反射的に右手が動く。
「終わった、目を開けていいわ」
「あ、はい」
ゆっくりと目を開けると、少し怒ったような面持ちのエルムがしきりに口をハンカチで拭いている。
ミナトはその理由を聞くことは出来ず、とりあえず剥き出しとなった下半身をズボンにしまいこみ、座り直す。
「どう、疲れは取れた?」
「うん、身体が軽くなったよ………主に一部が」
「そう、なら良かった。………無茶するんじゃないわよ」
「えっ?」
「何でもない、じゃあ私は行くから」
エルムはそれだけを言うと、そそくさと天幕を後にする。
ひとりポツンと残されたミナトは、その背中を見つめることしか出来なかった。
「リオ、あんまり皆を焚きつけないでね」
翌日朝、ミナトは何食わぬ顔で天幕内でくつろぐリオを見つけ、昨夜の出来事について言及した。
「んっ、朝一謎懇願」
「エルムのことだよ。いちおう丸く収まったけど………色々と治まったのは確かだけど、嫌だったりするだろうからさ」
ミナトの言葉にリオは首を90度曲げ、全身を使って何を言っているか分からないと表現する。
「いや、ほらさ、エルムにボクの天幕に行くようけしかけたでしょ?」
「………………理解。なかなかのエロエルフ」
「えっ、どういうこと?リオ??リオ!?」
リオは「昨晩はお楽しみだったようですね」とだけ言い、ミナトの問いに答えることなく去っていった。
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