シンギフ王国
「何故あのような何処の馬の骨とも知れぬ輩による建国をお認めになられたのですか。あまつさえ、領土の割譲など………」
王宮の奥深く、王と王族、そして宰相を含む極小数の臣下のみ入ることを許された、歴代ジェベル国王の宗廟にジグムンド3世はいた。
「どのような手段を用いたのかは分からぬが、アルベラを支配下に置いていることは事実である以上、敵対するわけにはいかぬ。民衆にしろ、貴族にしろ、あの場にいた全ての者が茶番劇に心から同心したわけではあるまいが、自らの命と王都の平和を守るという一点に置いて、無責任な歓呼の声こそ我らを救ったのだ」
王の言葉に宰相は己の不明を恥じたのか、それとも自らの胸の内に渦巻く不満を隠すためか、沈黙と共に顔を伏せる。
「どちらにせよカロは灰となり、近隣の村落も全て焼き払われた。カロを中心とした国境沿いの防衛網も壊滅したいま、盗賊や亜人、モンスターが跋扈する国境沿いにあって、都市や村落の復興を選ぶ物好きなどおるまい。都合よく、異議を唱える貴族もまとめていなくなったことだ。むしろ、あの者達を防壁代わりに上手く扱うことを考えるべきだろう」
「カロの堅牢さを過信し、自領に留まった貴族が多かったのが幸いしましたな。しかし、例の御仁があれこれと嘴をはさんできましょう」
「言わせておけ。それよりも教皇庁に早馬を遣わし、例の石頭よりも先に事の顛末を報告しておけ。事と次第によっては、『四罪』を借り受けることになるやも知れぬ。進物もたっぷりとばら撒いておくことだ………国を守るためとは言え、あのような輩に門を開くことになるとはな」
王が自嘲気味な笑いを浮かべると、宰相はそれに気づかない振りをして、ただ「畏まりました」とだけ応えた。
「さて、シンギフ王国への遣いは誰に致しますかな。失敗は許されぬ重要な役目ですが………」
宰相がやや芝居がかった口調で問うと、王は崩れた表情を整え大きく息を吐いた。
「放っておけば、あれが自ら手を挙げるだろう。やる気であれば、好きにさせてやれ」
「宜しいのですかな。何か問題を起こすやも知れませぬぞ。その時は………」
一際芝居じみた宰相の言葉に、王は何も応えなかった。
「はぁ、緊張した〜、一生分の勇気を使い切ったよ」
「アドリブ盛り盛りだったけど、終わり良ければ全てよし」
「でも、良かったの?転移魔法で戻ってきて。貴重なんでしょ、あの呪符」
ミナトが椅子に腰掛け、見慣れた景色、見慣れた家具、見慣れた部屋、そして未だ見慣れない二人の美少女に視線をうつす。
王都ハイペリオンでの一件が終わり、一行はリオの呪符によりミナトの家に帰還した。
ジグムンド3世は、ミナトが自身で四頭立ての馬車を駆り、数多の儀仗兵を従え王都を練り歩いた上でシンギフ王国の領土まで巡行するという案を示したが、リオが転移魔法により帰ると断ったのだ。
ジグムンド3世は同盟国の王を祝典もなしに帰すことを渋ったが、リオが「長く時間かけるとアルベラが意識を取り戻し、暴れ出す可能性がある」と言うと、別れを惜しみつつもミナト達を見送った。
心身共に疲弊しきったミナトにとって、住み慣れた我が家の空気はどのような良薬にも変え難いものに感じられた。
「んっ、とっておきはとっておきの時に使わないと意味がない。ミナトはレアアイテムを使えない派とみた」
「うっ、当たってる………確かに馬車で送って貰っても気をつかうだけだし、道中に領土とか同盟とか難しい話されても、頭がパンクしてたかも。ありがとう、リオ」
「照れる………ところで、ミナトはさっきから何やってるの」
リオは未だ気を失っているアルベラのあらゆる部分、頸動脈、脇腹、眼球、喉笛、臍、胸元、手首、アキレス腱、折れた角の根元、その他露出している部分全てに、延々と剣を突き立てようとしているミナトに向かい、やや遠慮気味に問いかける。
「あぁ、ゴメン、うるさかった?せっかく伝説の剣っぽいの貰ったから、これアルベラを殺せないかなって。でも、やっぱりダメだね、そう簡単には上手くいかないや」
ミナトのとびきりの笑顔に、リオは「そう………」とだけ呟き、窓から外の景色を見た。
二人の視界の先に広がる平原は、国名が変わったことなど知らないように、いつも通りの表情を見せている。
「シンギフ王国………ボク達の国。これからボクの想像もつかないような事ばかりが起こる毎日だろうけど、ヨロシクね、リオ」
ミナトの言葉にリオは無言で頷いた。
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投稿開始して半月以上たってようやく本題に入るという圧倒的な進行の遅さですが、次回以降待望の国作り&ハーレム作りに入っていきますので、今後ともご覧頂けると幸いです!!