慟哭
「あれぇ、来てくれたんだ~、イスズうれし~」
戦いが終わり平穏を取り戻した王都の城壁上にイスズの無邪気な歓声が響く。
「どしたの~、ノリ悪いなぁ。ひょっとして招かれざる客ってやつだった?」
イスズと対峙する少女は横目で場内を見渡し、そこに誰もいないことにホッと胸を撫でおろす。
「なに~、気になるの?大丈夫だって、イスズ達がそうあれと願えば誰にも見えない聞こえない。それがこの世界の、お母様が作ったルールでしょ。………まさか、忘れたわけじゃないよね?」
仮面を張り付けたような笑みのまま、微かな怒りが言葉にこもる。
「慣れないだけ。何の用」
「ちょっと~、せっかくお姉ちゃんが来てあげたのに、その態度はないんじゃな~い?あっ、わかった、反抗期だ~。そっかぁ、お年頃だよね、うんうん、健全健全。あの内気な妹が一人で潜入調査するんだ~って言いだした時は驚いたけど、反抗期なら仕方ないなぁ。一人で羽を伸ばしたい時だってあるよね、わかるよ」
イスズはうんうんとしきりに頷きながら、けれども一切表情を変えることなく、楽し気に話し続ける。
「さっきのは何。私を信用できないの」
「やだなぁ、可愛い妹を………大切な家族を信用しないわけないでしょ。アンデッドは、そうだな~、イベント?そう、人生を飾る大事なイベント。思い出作り。ほらっ、昔誕生日ごっことかやったじゃない。楽しかったな~、二人とも泣いちゃってさ~。皆でケーキ作って、美味しかったよね。お母様も凄く喜んでくれたし!!またやりたいな、そう思うでしょ!?ねっ!!」
「………………うん」
屈託のない笑顔に気圧されるように、少女は小さく同意を示す。
イスズは反抗期の妹が賛同してくれたことが予想外だったのか、自分自身を抱きしめるように手を交差すると、嬉しさを全身で表現するようにピョンピョンと飛び跳ねる。
「心配してくれてるのは知ってる。迷惑をかけてることも。でも、私はもう子供じゃない。自分で考えられる。自分で決められる。昔みたいに失敗しない」
少女は自分自身に言い聞かせるように呟く。
「わかったよ、本当は顔を見に来ただけなんだ。でも、すぐ安心した。だって、とっても楽しそうなんだもん。だから任せて」
「それなら…………」
「イスズが全部壊してあげるから」
「………えっ?どうして………」
「不必要だからだよ、この世界に、この国は。ついでにあの子もね。ちゃんと自分の目で確かめておいてよかったよ~。これ以上お母様を悲しませるわけにはいかないでしょ?だから処分した理由はキッチリ説明できるようにしておかないとなって思ってたんだ~。そうと決まれば話は早いほうがいいよね。今すぐここを離れな。って言っても、いきなりは気持ちの整理がつかないよね~。よしっ、お別れの挨拶もあると思うから、1日だけ時間をあげる。ここで起きた事、経験した事を最高の思い出にして、明後日から家族四人でまた頑張ろう。お母様も帰ってくるのを楽しみにしてるよ」
イスズは動揺する少女を気に留めることなく、声を弾ませる。
その声色は穏やかであり、口調は柔らかいが、紡ぐ言葉には一言の反論すら許さない独善性に満ちていた。
「い、嫌っ」
「………聞こえなかったかな。もう一度言ってくれる?」
「お、お母さんには私が言うの。イスズじゃない、私の口から。だからここから出て行かない。私にはここが必要だから、どこにも行かない」
「本気で言ってるの?お母様を裏切る気??………ふふっ、もうお姉ちゃんを困らせないで。意地を張ってるだけだよね、さっ、こっちに来なさい」
「違う、これは私が決めたこと。お母さんもきっと分かってくれる」
「………そう、だからイスズは反対だったんだよ、こんなの。アルが余計なことを吹き込んだせいだね。大丈夫、もういい。最初からキレイに作り直してあげる。この世界も、貴方も」
イスズの顔から笑みが消えると、少女は瞳に涙を浮かべ後ずさり、頭を抱えへたり込む。
とめどなく涙が溢れ、親に捨てられた子のように、ただ世界を恨み泣きじゃくる。
「あぁ、泣かないで………そうだよね、辛いよね。ゴメンね、また泣かせちゃって、もう絶対悲しい思いはさせないって誓ったのに。………1カ月だけ待ってあげる。お母様が目を覚ます前に家に戻ってきて。それだけでいいから。わかった?」
少女は声にならない声を飲み込み、感情のままに首を振る。
「じゃあ、お姉ちゃんは帰るよ。でも信じてる、貴方は絶対正しい答えを選ぶって。私達の家で待ってるね、クムト」
僅かな反響だけを残しイスズが姿を消したあとも、少女は自らの運命を呪うように慟哭した。
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