終焉の大時計
「なんだぁ、ありゃ!?」
「デボラさん、不味いです!!早く破壊しないと!!」
ミナトが崩れ踏ん張りの効かない足場をものともせず、突如現れた異形の物体に対し攻撃を試みる。
「せっかくのショーに水を差さないために足場を奪ったんだ、大人しく指を咥えて見ていてくれないか。『衝撃波』」
ジザは走り寄るミナトに向け手を突き出すと、掌から視覚で捉えることの出来ない透明な塊が射出され、車に轢かれたような衝撃にミナトの小さな身体は勢いよく吹き飛ぶ。
「ミナトッ!!ちっ、これならどうだ!!」
デボラは上腕にあらんかぎりの力を込め、予備武器である投擲用小型斧を投げつける。
「邪魔だてしないでくれ」
凄まじい風切り音と伴い真っ直ぐ大時計に向かった斧は、透明で歪んだ壁に遮られその進路を大空へと変える。
「どうやら運命の針を止める手立ては無くなったようだな。説明させてもらおう。この大時計は具現化された死そのもの。日々寿命を消費するしていく君達の人生を、少しばかり早送りするだけのシンプルな魔法だ。君達の寿命を秒針一周分に分割し、針が一周回ったところでこの大時計に一番近い生者の命が失われる。それが時針が一周するまで続くだけの単純な仕掛けさ」
「ちょっと何言ってるかわかんない。結局どういうことなのか説明求む」
「ふむ、君達の知能でも分かるように言うなれば、720人の犠牲を甘受すれば自分の命は助かるということだ。1番近いものから順に1分に1人死ぬ。逆に考えれば、自分より一人でもこの時計に近い人間がいる限り、君自身を災禍が襲うことはないのさ。つまり恥も外聞もなく馬を走らせれば、王である君も、大事なお友達も助かるわけだ。なかなか魅力的な提案だろ?」
「悪趣味」
「親切と言ってくれたまえ。質問がないようなら、ショーを始めようじゃないか。王として何を選択するのか。自らの命か、仲間の命か、民草の命か、それとも国か。勿論敗北を覚悟しながらも、名誉のためにこのジザに特攻するという選択肢もある。さぁ、答えを見せてくれ」
大時計の針がカチリカチリと秒を刻み出す。
何を捨て、何を選ぶのか。
王として、何を為すべきか。
時は無情なる選択をミナトに強いる。
しかし、ミナトは進んでいく時のなか、茫然と立ち尽くしていた。
「どうした、ただ時間を浪費するのは最も愚かしい行為だぞ?このままタイムオーバーではあまりに味気ない。我が主人もそのような結末は望んではいないのだが、どうしたものか………こちらから願い出るのも間の抜けた話だとは思うが、もっとあがいてくれ」
「んっ、じゃあ、とりま時計止める」
大時計の秒針に白い指先が添えられ、死へのカウントダウンを刻むはずの秒針がピタリと止まる。
「なっ、このジザの背後を取るだと!?貴様っ、何者だ!!」
「ナイスリアクション。でも結構前からいた。なんなら会話に混じってた」
「間に合ったみたいね。ショーがなんとか言ってたけど、もったいぶるタイプの敵で良かったわ」
赤黒い霧が上空で少女の姿へと変わり、大時計の上に羽根のように軽やかに腰かける。
「リオ!!アルベラ!!戻ってきてくれたんだね!!」
「ヒーローは一番良いところで現れる。物語の基本」
「ふざけた女だ。貴様らはこの舞台に相応しくない。消え去れ。黒水晶」
数百の黒水晶が檻となってリオとアルベラを取り囲み、黒い光が数えきれないほどの紫電となって二人の少女を襲う。
「あらっ、歓迎の花火にしては地味なんじゃない?」
「低周波マッサージとしても刺激がよわよわ。もっと芯からほぐす姿勢を見せるべき」
「超越者たるこのジザの魔法が通じないだと!?貴様達いったい何者だ!!」
死を司るとされる大魔術師の問いに、リオは終焉の大時計に頬杖をつきながら首を傾げた。
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