超越者
漆黒の底なし沼が姿を消すと、それと入れ替わるように一体の骸骨が現れる。
その身を金の縁取りのついた白銀のローブで覆い、肉を失った手には禍々しさを具現化したような一本の白銀の杖が握られている。
落ちくぼんだ眼窩には焔を思わせる赤黒い輝きが宿り、黄泉の国へと連れ帰る生者を見定めるように悠然と周囲を見回す。
「………死の大魔術師」
ミナトが声を絞り出すと、その名を知る幾人かの兵士達は恐怖により身を震わせた。
死の大魔術師。
リッチの上位種であり、死を司るとされる黄泉の魔法詠唱者。
竜鱗級冒険者に匹敵する実力を有すると言われ、死霊魔法により時として都市すら壊滅させるとされる上位アンデッドである。
しかし、ミナトが息を飲んだのは、敵が死の大魔術師だからではなかった。
死の大魔術師は確かに難敵であり、ミナトが一人で勝利を収めることが出来る相手ではない。
だが自軍には竜鱗級の力を持つデボラがおり、エルムやルーナという魔法詠唱者も控えている。
デボラを中心に連携を図れば、通常の死の大魔術師が相手であれば問題なく勝つことが出来るだろう。
けれど、それは敵が通常の死の大魔術師であればの話である。
「白銀………超越者………」
ミナトはうわ言のように呟きながら、敵が身に纏う衣を凝視する。
悪魔を始め無から生まれるとされる魔物はみな一様に同じ姿をしており、例外はない。
それはこの異世界のルールであり、RPGにおいて敵の外見が個体により変わることがないように、一目見ればどういった魔物であるか判別できるように作られているのだ。
しかし、そういったルールの埒外に生きる者も存在する。
超越者………種族の壁を破り、自らの意思により自らの姿を規定する者。
人の中に英雄と呼ばれる神の寵愛を一身にうける強者が現れるように、魔物の内にも神が英雄の好敵手として送り込んだであろう強者が現れるのだ。
そういった強者を人々は畏怖を持って呼ぶのである………『超越者』と。
ミナトの知る限り死の大魔術師は黒衣を纏い、黒杖を持っており、そしてそれは記憶違いではなかった。
つまり目の前にいる死の大魔術師は自ら種族の限界を超えた者………超越者であり、その実力は最早ミナトのような一冒険者の想像の範囲に収まるものではない。
「死を想え、死を畏れよ、死を崇めよ………」
死の大魔術師が風に消え入りそうなか細い声で呟くと、周囲の草木が急速に命を失い、緑の平原が死の色へと変わっていく。
「皆、城内に逃げて!コイツはボクとデボラさんで何とかする!!早くっ!!!」
ミナトが叫ぶように指示をすると、城壁の外にいる兵士達は悲鳴を上げながら城内めがけ走る。
「じゃ、イスズもおいとましよっかな。頑張ってね〜」
「わ、私は残るわよ!!あれって魔法詠唱者でしょ。貴方とデカ女だけじゃ、相手が何をしてるかも分からないもの」
エルムはそう啖呵を切ると、ミナトの背に隠れながら敵を睨みつける。
「大丈夫、エルムも城内に戻って………って言いたいところだけど、力を借りていいかな。皆の手前ああ言ったけど、全く勝てるビジョンが浮かばないんだ」
ミナトは背嚢をまさぐりながら、必死に考えを巡らす。
敵の後方にはちょうど挟み撃ちをするような形でデボラが位置し、武器を構え機を窺う。
「ほぅ、我を見てもなお戦意を失わぬか。ならば、ひとつ遊んでやろう」
死の大魔術師はミナトに向け手をかざすと、詠唱することなく魔法を放った。
すると、一呼吸するうちに巨大な火球が生まれ、矢よりも速く一直線にミナトに向け飛来する。
ゴウッ
ミナトの肉体は一瞬にして地獄の業火に包まれ、同時に肉が焼け焦げた匂いが周囲に漂った。
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