幻想的で暴力的な世界
「え〜と、ご自慢のハーメルンはどうなったの?大乱戦じゃな〜い?」
「イスズ、もっと後ろ下がって!!………くっ!!」
ミナトはリビングメイルが繰り出す一撃を剣でいなし、胴を一刀両断する。
朽ちかけた鎧はナイフでバターを切るよりも容易に切断され、この世に無理矢理繋ぎ止められた魂が解放されたかのように粉々に砕けた。
「おおっ、それって六大魔公『常闇のダムド』を退けたっていうデュゼルの剣でしょ?たかだか低位アンデッド退治には勿体無い逸品だねぇ。ああ、イスズの事なら気にしなくていいよ。平気だから」
「そんなわけにはいかないよっ!!」
ミナトは砂漠にオアシスを見つけたかの如くイスズ目掛け突進してくるアンデッドを片っ端から斬る。
先程の戦闘から数えて、既に剣を振るうこと百数十回。
手傷こそ負っていないもののその小さな肉体には確実に疲労が蓄積されており、ともすれば手から剣が零れ落ちそうになる。
数的な不利を誤魔化すために歩兵隊や騎兵を伴ってはいるが、既に陣形を無視した乱戦となった今、戦場に安全な場所は存在ない。
戦い慣れていない彼らを戦力として数えることは出来ないため、兵にはミナトの背後を守り退路を確保することだけを指示し、実質単騎で数百からなる敵を食い止めるべく城壁沿いの敵を力の限り斬っていく。
「なに無茶してんのよ、ああっ、囲まれる!!ちょっと貴方達、援護しなさいよ!!」
頭上からは絶え間なくエルムの悲鳴と怒声が交互に降り注ぎ、同時に幾らかの矢や投石が放たれ、迫りくる敵勢を一呼吸分だけ押し留める。
しかし、城壁上の至る所に敵影が確認できる現状においては、そういった支援も長くは期待できない。上も下も、誰もが自分自身が生き残るために懸命に戦っており、余力を残す者はいない。
ミナトには王として、英雄として一人でこの絶望的な戦況を支え、好転させることが求められていた。
「ミナト、トロールゾンビがそっちに!!くそっ、止まれ!!」
エッダが矢を放ち、ミナトに襲いかかる死せる巨人の瞳を射る。
「グオオオオオオオッ!!!!」
深々と突き刺さった矢が引き抜かれ、ドロリと瞳が地面へと落ちる。
命ある者であれば激痛と恐怖により意識を保つことすら難しいほどの負傷だが、死により痛覚から解放され狂戦士と化したトロールは地面に転がった眼球をプチリと踏みつぶし、エッダへと矛先を変え突進する。
「エッダ!!くっ、お前の相手はボクだ!!」
トロールゾンビが棍棒を振りかぶった刹那、ミナトは背後から袈裟斬りに斬りかかる。
しかし、不十分な体勢から放たれた一刀には敵を再び土へと還すほどの威力はなく、苦し紛れに敵が振るった得物がミナトの身体を掠める。
「ぐあっ!!」
額が割れ、血で視界が滲む。
(くらった?なにを!?………ダメだ、記憶が混濁してる。敵はコイツか??とにかく距離を取らないと………)
後方に飛び退き時間を稼ごうとした瞬間、足元に溜まっていた血だまりが意志を持っているかのように絡みつき、足を取られたミナトは力なく地面に倒れ込む。
「ミナト!!立ちなさい、殺されるわよっ!!!ミナトっ!!!!」
(あれ、不味いな、これ。身体に力が入らない。勝ち誇った笑み、振り上げられた棍棒、どうしてだろう何故だか全部遠い世界の出来事に思える。………ひょっとしてボク死ぬのかな?呆気ないな、でも死ぬときって意外とこんなものなのかも………きっとボクがいなくなっても、皆がこの国をもっと良くしてくれる。そうだ最後に皆に言いたいことがあったんだ)
「みんな………ありが……………」
その言葉が最後まで発せられることはなかった。
トロールゾンビの棍棒は冬の陽光を纏い、稲妻のように振り下ろされ、しかしミナトに届かない。
「はぁ!?え!!??」
感傷を吹き飛ばすような暴風が荒れ狂い、常人の倍はあろうかという巨体がいとも簡単に空を舞う。
目を疑うような光景に、痺れが残り自由の利かない上半身を強引に起こすと、そこには球体上の土の塊から生える無数の泥の触手がアンデッドを地面に宙にと引きずり回す、幻想的で暴力的な世界が広がっていた。
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