国の名は
「盟約はなった!!ここに神託の勇者ミナトによる新王国の建国を認める!!」
王が発した宣言は魔法により大広場のみならず王都全域に響き渡り、それに応えるように『ジェベル王国万歳』『ミナト王万歳』の声が街中にこだまする。
「王よ、このようなペテン師に騙されてはなりませぬ!!国家を舌先三寸で盗み取ろうとするは、死すら生温い大罪!!詭弁により王国の領土を明け渡すことがあれば、2千万余の臣民のみならず、他国からの信望も失うことは必定ですぞ!!」
「口を慎め、他国の王になんたる無礼を!!その者を投獄せよ!!以後、同様の発言をするものは、ジグムンド3世の名の下に厳正なる処罰を与えん。………ミナト王よ、非礼に次ぐ非礼、臣下に代わり詫びよう」
「いえ、そのような………」
謝罪する国王に対し、ミナトはあたふたと頭を下げる。
「割譲する領土や両国間の約定については、後日然るべき者を遣わし議することとしたいが、新王国成立にあたり、この場でミナト王より国号を伺いたい」
「国号!?」
「その通り。新しき門出を祝うに辺り、国民とともに新王国の国号を唱和し、両国の絆の証としたいのだ」
(いやいやいやいやいやいや、どうしよう、何も考えてないよ!?)
縋るようにリオに視線を送るが、当人はもはや完全に仕事を終えたかと思っているのか、ミナトの隣で自身も一観客であるかのように、国名発表をワクワクと心待ちにしている様子である。
(どうしよう、どうしよう!!おっ、落ち着け、偶数を数えるんだ、2、4、6、8………。よしっ、考えを整理しよう。今から新しい名称を考えても、自分にもこの世界の人にも耳馴染みのない名前になるに決まってる。ボクの知ってる単語で、縁起がよくて、響きがよくて、しっくり来るもの………)
(誰もが幸せになれる国にしたい、誰かの居場所になれるような新しい国にしたい、もしこの世界にボク以外に転生者がいるのなら気づいてほしい………そうか、この名前なら、きっとこの国名なら、ボクの想いを全部込められる)
(元の世界への感謝を、今いる世界への希望を、そして未来への道しるべとなる国の名は………)
ミナトは顔を上げ、ジグムンド3世に向かい頷く。
「ミナト王よ、新たな国名を聞かせてはくれないか」
「ボクの、ボク達の新しい国の名は………」
王都中がミナトの口から発せられる国名を聞き逃さまいと、息を飲む音すら立てず耳をそばだてる。
「国の名はシンギフ………『シンギフ王国』です!!」
「シン…ギフ………シンギフ王国………」
「ダッッッ………」
「リオ、いまダサッって言おうとしなかった!?」
「んっ、ギリ飲み込んだ。セーフよりのセーフ」
「アウトよりのアウトだよ!!そもそも『シンギフ』の元になった岐阜は、信長が岐山に拠点を置いて殷王朝を倒した周王朝の故事に倣ったもので、自分もこの場所から天下に挑むって言う稀有な気概を示した、戦国時代のターニングポイントなる重要な場所なんだよ!?そんな縁起の良い『ギフ』に『シン』を加えることで、新しい時代を切り拓く気概をトッピングしてるんだ。それに父さんも『シンギフ』は便利だって言ってたし………始発、始発で名古屋に30分で着けるって言ってた!!」
「オタク特有の早口」
ミナトは恐る恐るジグムンド3世の反応を窺う。
「ミナト殿………いや、シンギフ国王ミナト陛下。国号とは名ではあって、名ではない。どれだけ国名に疑問を持たれようと、民が豊かに暮らせるのであれば、その安寧をもって輝きを帯びるもの。シンギフ王国というダッ………趣深い名も、ミナト王の治世により素晴らしい国号であると認識されるに相違ない」
「なんか今遠回しにディスられた気がする!!」
「んっ、かなりダイレクト」
「ミナト陛下、我が臣民と共にシンギフ王国の門出を祝おうではないか。聞け、我が臣民よ!!ジェベル王ジグムンド3世は、ここにシンギフ王国との同盟、そして永久の友誼を宣言する!!」
ジグムンド3世はミナトに音頭を取るよう促す。
(と、とんでもないことになっちゃった………正直ボクが王としてやっていけるかなんて、分からない。でも、自分で選んだ以上、最後まで立派な王を演じ続けてみせる!!)
ミナトは胸に膨れ上がる不安ごと吹き飛ばすように、肺に溜まった全ての空気を音へと変える。
「シンギフ王国万歳!!ジェベル王国万歳!!」
『『『シンギフ王国万歳!!ジェベル王国万歳!!』』』
ミナトの声と民衆の声が混ざり合い、大きな音の渦が王都全体を包み込む。
新たに手を取り合った二つの国、二人の王を讃える歓声は、いつまでも止むことはなかった。
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基本毎日投稿する予定ですので、完結までお付き合い頂ければ幸いです。
新岐阜とかいう新しさも未来も感じさせないフレーズ…地元民としてせめて作品内で推さないと(使命感)