衝突
「出撃!!」
ミナトが鋭く叫ぶと、城門が開き鐘が打ち鳴らされる。
僅かに間を置いて、デボラが向かっている西の城門からも鐘の音が響く。
「歩兵隊、横陣で前進。前方敵に向け、構えっ!!」
命令を受け、守備兵は自分の持ち場をおろおろと探しながらも、横陣を組み長槍を構える。
「スケルトンだ………あれだけの数、本当に俺達だけで何とかなるのかよ」
「安心しろ、こっちには六大魔公を倒した英雄がいるんだぜ、スケルトンにゾンビなんて雑魚相手にならねえよ」
隊列を組んだ男達は不安を口にしながらも、ミナトという存在を軸に何とかまとまり、敵と交戦するまでの僅かな、しかし永遠にも思える時間を手にした槍を思い切り握りしめ、ジッと待つ。
歩兵隊は僅か20名。
数百からなる敵の分隊を相手取るにはあまりに過小な兵力であり、大将として王を戴いているという昂揚感を取り去ってしまえば、逃げ出す者が出てもおかしくない状況である。
「みんなかなりビビってるね〜。特等席で観戦させて貰ってるお礼に、こんなのはどうかな」
イスズはリュートを抱え直すと、ゆっくりと弦を鳴らし曲を奏でる。
「なんだ、この音楽………ダメだ、やっぱり勝ち目なんてない。俺らはみんな殺されるんだ………」
周囲に響き渡るどこか物悲し気な音楽に男達は構えを解き、槍を杖のようにしながらガックリと肩を落とす。
「ちょっと待って!!なんかデバフ入ってない!?」
「アハハッ、間違えた間違えた、こっちだこっち、ゴメンね〜」
イスズが笑いながら再び弦を弾くと曲調が一瞬にして勇壮なものへと変貌し、一音一音弾むようなリズムに鼓舞され男達の背筋がぴんと伸び、槍を握る手に力が漲る。
歩兵隊の後方で待機していた騎兵も、初めての戦場の熱に当てられているのか、しきりに馬がいななき馬上の男達を振り落とさんばかりの勢いであったが、リュートの音色により落ち着きを取り戻し、今は静かに闘志を滾らせている。
「凄い、人だけじゃなくて馬まで一瞬で戦士の目に変わるなんて………。範囲も効果も獅子の心より遥かに上だ。イスズも人が悪いなぁ、ただの吟遊詩人じゃないね。冒険者か宮仕えか………どちらにしろ相当な修羅場をくぐってきたんだね」
「今日の戦いが良い詩に仕上がったら教えてあげるよ。そろそろ敵も用意が整ったみたいだし、私は後ろから応援させて貰おうかな」
イスズの言葉どおり、スケルトンとゾンビの混成軍はまるでプログラミングされた機械のように横五列、縦に数十列という懐の深い縦深陣を構築し、最後尾の列が整ったのと同時に前進を始めた。
「歩兵隊、対アンデッド上段構え………叩け!!」
天高く掲げられた大人の身長の数倍はあろうかという長槍が、重力により加速しアンデッドの群れへと振り下ろされる。
グシャリという不快な音が槍を通し身体中に響き、その表現しようのない感覚に多くの守備兵が顔をしかめる。
しかし、次々と押し寄せる死者の波にそのような感傷に身を浸す余裕はなく、男達は迫りくる死を遠ざけるために懸命に槍を振り下ろす。
一波、二波と敵の列が崩れていき、守備兵の前に永遠に動くことのなくなった死体の山が積みあがっていく。
「やるじゃん素人っぽいのに。でも、このままじゃすぐに押しつぶされちゃうけど大丈夫?ほらっ、敵は死んでも死んでも最初から死んでるから関係ないし。倒れた仲間を踏みつけながら攻めてくるのは、素人さんにはちょっと刺激が強すぎるよね」
イスズの指摘通り、僅か20名しかいない歩兵隊は絶え間なく補給される敵の全身を受け止めきれず、数分もしないうちに押し込まれ、徐々に後退を始める。
その姿はあたかも波に飲まれる砂の城のようであった。
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