ウロボロス
「ちょっと、いつまでとろとろ詠唱してるのよ!!いくら防御魔法がかかってるからって、登られたらどうしようもないんだからね!!あーっ、来てる、そこ来てるから!!早くしなさいってば!!!!」
耳をつんざくエルムの金切り声にも動じることなく詠唱を続けていたルーナの瞳が開き、最後の一節が紡がれる。
「土は土、石は石、固けりゃうねって背をほぐせ、おいでよおいで、石蛇」
魔法が放たれた刹那、城壁に沿うように地面がボコリと小さく隆起し、何体かのスケルトンが足をとられ転倒する。
しかし、死者の行進は魔法によりもたらされた僅かな地形の変化で止まることはなく、倒れた仲間を踏みつけながら、ただ前へと進む。
「………えっ、まさかこれだけ??本気だしてこれなの!?あぁ、だからナーガなんかに任せるのは反対だったのよ!!いくら最強の戦力である私の魔法を温存したいからって、城壁を突破された後じゃ意味が………」
ゴゴゴゴゴッ
地の底から聞いたことのないような異音が響く。
「なっ、なに!?地震??キャア!!!!」
石蛇の通り道に沿うように大地が二度三度と揺れ、その振動が櫓を大きく揺らし、エルムは必死に柱にしがみつく。
同時に石蛇により僅かに盛り上がった地面が音を立て崩れ、地龍の顎の如く大きく開いた亀裂に次々とスケルトンが飲み込まれていく。
「やった!!成功だ!!!」
歓喜の雄叫びと共に2人のもとに走り寄ったのはミナトだった。
息は切れ、額には汗が浮かんでいるが、表情には不安や疲労はなく、瑞々しい活気に満ちている。
後ろには涼しい顔をしたイスズがピタリとくっついており、その姿を確認するなりエルムは顔を顰めた。
「いつの間に来てたのよ!!成功ってどういう事なの!?」
「ふふふっ、王都防衛マニュアル第三章五項を読んでないみたいだね。これは弓や投石機で相手を止められない場合の王都防衛の秘策『輪状落とし穴』人呼んで『ウロボロス』さ!!」
ミナトは大地の裂け目に飲み込まれていく敵勢の様子を確認しながら、手柄を誇るように弾んだ声で答える。
顔には褒めて褒めてと言わんばかりの稚気が見え隠れし、そのはしゃぎぶりは眼下に広がる状況がミナトにとって想像以上の成果をもたらしていることを示していた。
「人呼んでって、なんで秘策の名前が普通にバレてるのよ!!だいたい王都周辺に落とし穴とかバカなの!?下手したら道から外れた馬車が原因でこの大崩落が起きるかもしれないわけでしょ??安全意識どうなってんのよ!!」
「………ウロボロスシステム、間に合って良かった。まだ北部方面にしか仕掛けられて無いけど、敵が罠を気にせず力押しをするタイプで助かったよ。警戒されて迂回されたらせっかくの罠が水の泡だからね。いつか水堀と有機的に連携させて『ウロボロス∞(インフィニティ)』にグレードアップした暁には………」
「話を聞きなさいよ!!早口で語れば都合の悪いこと誤魔化せると思ったら大間違いだからね!!」
「二人とも〜、仲良しなのはいいけど、まだ終わってないよ〜。とりあえず前衛の動きは止めたから、大魔法の使いどころ的な〜?天才魔法詠唱者がいたら圧勝的な〜??」
ルーナが意図的に天才という単語に力を入れて発音すると、エルムの表情が一変し得意気な笑みを浮かべる。
「ふふふふふっ、とうとう私の出番が来たわけね。哀れな死せる魂を二度とこの世に戻って来れないくらい粉微塵にしてあげるわ」
エルムが詠唱を始めると、その美しい旋律に導かれるように周囲に真言が浮かび、世界を作り変えていく。
鳥の囀りを思わせるその調べは、死してなお安らかに眠ることを許されない戦士達への鎮魂歌のようであった。
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