王都防衛戦
「なによ、それ!!こんなの聞いてない!!!」
ミナトが再び口を開こうとすると、それを遮るようにエルムが怒声を発する。
「いや、いま良い感じに団結を確認しあったよね!?敵に攻め込まれて怖い気持ちは分かるけど、この時のために準備はしてあるから安心して」
「そうだよ〜、前もって攻めるよ宣言する敵は少数派だと思うよ~。でもあんなに沢山いると、事前に一声かけといて~って思う気持ちは分かるかも~」
「違っ、そうじゃなくて………………ふんっ、索敵くらいわたしが居なくても大丈夫だと思ってたけど、やっぱり貴方達には任せておけないみたいね。アンデッドなんて所詮雑魚でしょ。真言魔法でパパッと一網打尽にしてあげるわ」
2人に宥められると、エルムは少し口ごもったあと、いつもの調子で居丈高に言い放つ。
「う〜ん、私は土の中で隠れて寝てるから、終わったら起こして〜」
「ふざけたこと言ってると、永遠に寝ることになんぞ」
「戦わせることになっちゃって申し訳ないけど、ルーナの魔法も必要なんだ。終わったら好きなだけお昼寝して良いから頼むよ」
「ふふ〜、交渉成功〜。お昼寝時間をプラスするためのテクニックだよ〜。王都なくなったら、お昼寝どころじゃないしね〜、また家なき子にならないためにも頑張るよ〜」
ルーナが腕の代わりに尻尾をピンと突き上げると、天幕に満ちていた張りつめた空気が弛緩していく。
「ははっ、ありがとうルーナ。………状況を確認するよ。敵はスケルトン中心にしたアンデッドの大軍だ。さっき確認したとき既に500はいたから、城壁に辿り着くころには千近くまで増えていると思う。それに比べてボク達は、新規の移住者を含めても戦える人数は200人に満たない。数で圧倒的に劣っている上に、質の面でも正規兵がいない以上不利なのは否めない。だけど王都には曲がりなりにも城壁や櫓、手作りの投石機があるし、何よりみんながいる。今回の勝利条件は一人も死者を出すことなく敵を退けること………ボクは十分可能だと信じてるよ」
「おうよ、ミナトとオレが寝る間を惜しんで練り上げた王都防衛戦術にキッチリ今回のケースも想定されてっからな。近頃土方仕事ばっかでストレスマックスなんだ。ここはいっちょ派手に暴れさせてもらうぜ!!」
デボラが力こぶを作る隣で、ミナトは王都の地図を広げ指でなぞる。
「具体的にはどうするつもりなのよ」
「それは………」
「なんなの、さっきの作戦は!!本当にあんなに上手く行くと思ってるの!?」
「ま〜ま〜、エルムっち落ち着いて〜。ミナトっちもデボラっちも、ああ見えて歴戦の猛者なんだよ。私達よりアンデッドの行動にはずっと詳しいだろうし、信じてみようよ〜」
作戦会議が終わるとエルムとルーナは敵襲が一番早くに到達するであろう北門の城壁の櫓に配置されることとなった。
既にアンデッドの軍勢は数百メートルの位置まで押し寄せているが、こちらの出方を窺っているのか、それとも屍術師からの指示を待っているのか、投石器や弓矢の射程の外側で整然と隊列を維持したまま動こうとしない。
「う〜ん、ここからじゃ魔法を撃っても広範囲に巻き込めないね〜」
「期待してないわ、どのみちナーガ程度の魔法じゃ数匹倒すのが精一杯でしょ、私一人で十分よ。はぁ、神代のエルフたる私がなんでこんな鱗臭い蛇女のおもりなんて………………えっ、なに!?なんか来る!!!キャーーーーーーーーッ!!!!!!」
エルムの叫び声に導かれるように、人ほどの大きさの塊が櫓に向かって投擲され、激しい衝突音が耳をつんざく。
「ゾンビ~?丸められたゾンビが投げられた的な~??本当に味方のこと武器にするんだね、ちょっとビックリ~」
ルーナは尾の先をピョコピョコと左右に振りながら、バラバラになって地面に落下したアンデッドの残骸を確認する。
「なんでそんなに冷静なのよ!?」
「ミナトっちが城壁には投擲物無効の魔法がかけられてるって言ってたし~、アンデッドが仲間を投げて武器&尖兵にするって戦法も聞いたばっかだよ~。でも沢山投げられたら不味いとも言ってたね~。わぁ、また飛んできた、この調子だと持たないかも~」
視線の先には空を埋め尽くさんばかりに飛来する無数の死者の肉体。
城壁にかけられた結界魔法にぶつかり激しい火花を散らす不浄なる魂の最後の輝きが、王都防衛線の始まりを告げていた。
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