戦場を駆ける少女
「ねえねえ、六大魔公を封印した英雄っていうのはキミ?」
これから命を賭けた戦いが始まろうという刹那、ミナトの背後から緊張感に欠ける声が響く。
反射的に振り返ると、そこにはミナトと年齢の変わらない小柄な少女が、戦場には似つかわしくない余裕のある笑みを浮かべながら顔を覗きこむような姿勢で立っていた。
袖が長く裾が短い派手な色遣いの特徴的な衣服、ランドセルを思わせる不思議な形のリュック、艶やかなボリュームのある緑髪はところどころピンク色に染め上げられ、その異様な出で立ちはミナトに現代日本に戻ったかのような錯覚を覚えさせる。
「なに~、竜が小鬼を踏みつけたみたいな顔しちゃって~。分かった、イスズが可愛いから見惚れてたんだ。いいよ好きなだけ見て、その代わりなんかちょ~だい」
イスズと名乗る少女はミナトの視線に一切怯むことなく、瞳をジッと見つめながら何かをねだるように掌を差し出す。
「なにやってるの、親御さんはどこ?危ないから早く避難しないと」
「あ~、イスズのこと子ども扱いしてる?ショックなんだけど、こう見えて結構大人なんだからね~」
「………ごめん、今はふざけてる場合じゃないんだよ。アンデッドの群れがココに迫ってるんだ。絶対に城壁の中には入れないけど、外にいると危険だ。誰かに集会場まで案内………」
ミナトが人を呼ぼうと辺りを見回すと、少女は一瞬の隙をついてミナトの唇に自分の唇と重ね合わせる。
「えっ!?………あっ、いや、ゴメン」
「え~、どうして謝るの、なんかちょっとショック~。まあいいや、イスズは見ての通り売れっ子吟遊詩人なんだけど、英雄譚のレパートリーがマンネリ気味なんだよね~。六大魔公討伐で建国した英雄がいるって噂聞いてこの国に来てみたら、いきなり面白い展開になって感謝みたいな。決めた、今日はキミと一緒にいるね。やっぱり良い曲かくためには刺激的な体験が必要だよね」
「ダメだ、死ぬかもしれないんだよ!?」
「こう見えて自分の身を守れるくらいには強いんだよ。女の子が一人で旅すると、それなりに危ない目にあうからね。それにキミが本当の英雄ならイスズのことくらい守ってくれるでしょ。六大魔公を倒した英雄に助けられるとか、こんな美味しいシチュエーション人生に一度あるかないかだよ~。ほらっ、お仲間が呼んでるけど?余計なお喋りしてる時間なんてないでしょ、早く行こ~」
「そんな強引な………」
ミナトは信じられないほど自分勝手な少女の提案に対し反論をしようとするが、遠くから手を振る伝令の姿を見て口をつぐむ。
「一つ約束して。邪魔はしないこと。危ないと思ったら逃げること。いいね」
「二つじゃない?でも、りょ~かい。ふふっ、楽しいことになりそうだね」
からかうような表情をする少女を無視すると、ミナトは防衛線の指揮をすべく城壁にほど近い天幕に走る。王都内にいる重臣は敵襲を告げる鐘の音が鳴った場合この天幕に集まる手はずとなっており、外に出ているリオとアルベラ、街道の安全確保に向かっているレティ、バイムトの4人を除いた仲間達が既に集合していた。
「おいおい、こんな時だってのに、また新しい女ひっかけてくんのはツッコミ待ちなのか?」
流石にこの状況で新たなハーレム要因が登場するとは考えていなかったのか、デボラは腕組みをしながら困惑気味に言い放つ。
「違いますよ、勝手についてきたんです………」
「イスズだよ、取材中なだけだから気にしないでね~」
イスズは天幕内に満ちるピリピリとした空気に動じることなく、ミナトを背後から抱きしめる。
「珍客ですね、裏のほうで兎鍋でも食べさせておきますか」
「ウチのこと気軽に食材にしようとするの止めな~」
「みんな色々言いたい気持ちは分かるけど、今はアンデッドへの対応だけを考えよう。敵の数は多いけど、それだけに行軍スピードも遅い。さっき見た限り動きの遅いリビングメイルに合わせて動いてるから、城壁に辿り着くまで10分以上かかるはずだ。ボク達がどう動くかがこの戦いの帰趨を決める………力を貸して」
ミナトの言葉に居並ぶ仲間達は表情を引き締め、小さく頷いた。
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